パラパラと雨粒が振ってきた為に、トシマの裏路地を1人で歩いていたアキラは、雨宿りをしようと手近な廃ビルに入った。

「アキラ?」

注意深く、中に入ると良く知っている声が聞えた。

「…ケイスケか?」

アキラの声に反応するように、奥から出てきたのは幼馴染のケイスケだけだった。

「リンは一緒じゃないのか?」

「やだなぁ。いつも一緒じゃないよ」

アキラの質問に、ケイスケは弱々しく答えた。

「ふ〜ん」

「あ、アキラ」

「雨。本格的になってきたな」

ケイスケに話しかけられた事に気付かずに、アキラは外を見て呟く。

「アキラ!!」

突然に大声を出したケイスケは、窓辺に立つアキラに詰め寄った。

「ど、どうしたんだ?」

背後は壁、目の前にはケイスケ。

ケイスケがちょっとでもバランスを崩せば、お互いの唇が触れそうな距離に、アキラは恐怖を覚えた。

しかもケイスケはアキラの肩を押さえている。

アキラは肩に触れるケイスケの手にさえも嫌悪感を募らせる。

シキ以外に触れられている。

たとえソレが服越しで、肩だけといっても…。

「っ…ケイスケっ!」

思わず、怒鳴っていた。

「あ…ごめん」

アキラに怒鳴られて、ケイスケが慌てて手を退けると、アキラは雨が降る外へと飛び出した。

バシャバシャと、水飛沫を上げて、アキラは裏路地を走っていく。

「っ…シキ……」

シキの名前を口にしながら、必死に走っていく。

シキは幾つもの塒を確保していて、その中から最も広い部屋をアキラに与え、使わせていた。

アキラはその塒へとどしゃ降りの中、走って戻った。

アキラが塒に戻ると、シキは居なかったが、水のペットボトルとオムライス味のソリドが数個、ベッド横の机の上に置かれていた。

「シキ…来てたのか」

机の上のものを確認したアキラは、隣のバスルームに向う。

アキラがバスルームに消えてから、ずぶ濡れになったシキが戻ってきた。

シキはアキラの帰宅の有無を確認する事もなく、コートを脱ぐとバスルームに向った。