『今からお前の所有者は―この俺だ』

降り注ぐ雨の中、シキに抱き上げられて、囁かれた言葉は絶対的な命令。



再び目を開けると、シキの胸元が見えた。

そして、シキに抱きしめられる形で眠っていたと気付く。

「今日は移動しない。もう少し寝ろ」

ボンヤリとしていると、頭上からシキの声が降ってきた。

どうやら、アキラが起きたのに気が付いたらしい。

「う…うん」

シキの珍しい気遣いに、アキラは素直に頷くと、再び瞼を閉じた。

静かな寝息が聞こえてきて、シキは安心した。

トシマに似た雰囲気の街。

晴れ間が短く、雨がパラつく日は、アキラは決まって『あの日』の夢を見ては熱を出す。

本人は無自覚だが、シキは気が付いていた。

しかし、それを指摘する事はなく、アキラが落ち着くのを待つ事を選んでいた。

『あの日』の事。

シキが拾う直前にあった出来事はアキラの問題だから、アキラが自力で乗り越えるしかない。

シキは無言でアキラにそう示し、アキラも頷いた。

ゆっくりではあるが、アキラは『あの日』を夢に見ることが少なくなってきた。

アキラがそれをシキに言う事は無かったが、お互いの間に流れる雰囲気で察しが付く。

僅かに、だが、確実に。

シキとアキラの雰囲気が変わりつつあった。

それは、他人に興味が無かった2人に起きた変化。

お互いを大切に思う事。

アキラは口数が増えて、シキはアキラに対してのみ、優しい笑みを見せるこようになった。

アキラの見る『あの日』―『ケイスケ』の夢は、『シキに拾われた日』に塗り替えられていく。

シキの手によって。

アキラの望みのままに。