今日のトシマの空は雲が低く立ち込めていた。

「アキラー。何処に行くの?」

アキラは声をかけられたと思ったら、腰にタックルをされた。

「リン」

タックルしてきた相手を呆れながら振り返る。

「ヤッホー。元気?」

「離れてくれ」

抱きついたままで、話をしようとするリンに、アキラは短く頼む。

「ちえっ」

残念そうに呟いて、リンはアキラから離れた。

「で?アキラ。何処に行くの?」

「別に」

リンからの再度の問いかけに、アキラはそっけなく答えた。

「アキラって、いつも『別に』だよね」

つまらなさそうに言いながらリンは歩き出した。

「そう…か?」

聞き返しながらアキラはリンについて行く。

「そうだよ!」

リンについて行くと、中立地帯になっているホテルにたどり着いた。

「ケイスケとおっさんが待ってるよ〜」

軽い足取りでホテルのドアを潜るリンと、普段と変わらない様子でなかに入る。

「アキラ!」

既にホテル内に居たケイスケが嬉しそうな声をあげた。

「よぉ。アキラ。リンも元気そうだな」

「昨日、会ったばかりでしょ」

笑いながら、リンはケイスケと源泉が座るソファに近づいた。

アキラは黙ったまま近づく。

「アキラ。イグラはどう?」

「どう…って」

笑顔で聞いてくるリンに、アキラは困った顔をする。

「最近、イグラしてるの?」

ケイスケがフォローするかのような言い方をする。

「…してはいる」

視線をそらして、アキラは答えた。

「なんだぁ?元気のない返事だな」

源泉が煙草をふかしながら、アキラを見やる。

「おい。聞いたか?東地区にシキが出たって話」

「ああ。聞いたぜ」

リンがアキラに話しかけようとしたとき、ホテルに入ってきた男たちの話が聞こえてきた。

「シキが東地区に?」

顔色を変えて、呟くとリンは走り出した。

「リンっ!?」

ケイスケが叫ぶが、既にリンの背中はホテルのドアを潜った後だった。

「またか…なぁに、気にするこたぁねぇ。気が済めば戻ってくるさ」

「でも、相手はレアモンスターだって…」

「遭遇するとは限らないだろ」

ケイスケを安心させるように、言う源泉にケイスケは言い返すが、外を見たままのアキラが呟いた。

「アキラの言うとおりだ。遭遇する確立が低いからこそ『レアモンスター』なんだぞ?」

呟いたアキラの言葉を拾って、源泉が茶化す。

他愛ないやり取りを源泉とケイスケが繰り広げているのを、アキラは適当な相槌を返しながら眺めていた。

「駄目だぁ。見当たらなかった」

暫くして、大げさな態度でリンが帰ってきた。

「ほらな」

リンの姿を見るまで、ずっと心配していたケイスケに源泉はウインクを送る。

「リンも帰ってきたし。俺、そろそろ」

ずっと外を眺めていた、アキラはリンがソファに座ると立ち上がった。

「え?もう行くの?仕方ないぁ。じゃあ、またね」

「アキラ?もうちょっとくらい」

「気をつけろよ!」

アキラを引きとめようとするケイスケを押さえながら、源泉とリンはアキラを見送った。

「ふう…」

ホテルから出ると。アキラは溜息を吐いてから薄暗い路地に足を向けた。

ヒュン。

どさっ。

路地に入ったところでアキラの耳に、空を切る音と人が倒れる音が届いた。

「シキ」

路地の角を曲がると、そこに居たのは漆黒を纏う赤い瞳の男。

「なんだ」

アキラに目もくれずに、シキは刀を軽く振って血振りすると、鞘に収めた。

「さっき、ホテルで東地区に出たって聞いたから」

アキラの言葉に、シキは視線を投げただけで背中を向けてた。

狭い路地に響く硬質な足音。

アキラはその足音を追うようにシキの背中を追いかけた。

やがて2人は郊外にあるアパートらしき建物に入っていた。

「あの場所で、何をしていた?」

一室に入り、椅子の代わりにしている木箱にシキが座れば、アキラはベッドに腰かけた。

「何って…ホテルからの帰り」

刀を鞘から抜き、刃こぼれをチェックするシキを眺めながら、アキラはどこか安堵している自分が居る事に気が付いた。

カチャリ…刀を木箱に立てかけて、シキがアキラに近付く。

アキラはただ静かにシキの動きを見ている。

シキがアキラの正面に立つと、ベッドに腰掛けたままのアキラは、顔を上に上げる形になる。

シキの手が肩に置かれた。