「真田幸村?」

奥州と甲斐を繋ぐ街道沿いの茶屋で、団子を頬張りながら寛ぐ青年を見つけた政宗は、一瞬だけ、相手が誰だか判らなかった。

「むぐっ!?・・・・・・ぷはぁ。伊達政宗?」

政宗が近付いて幸村の顔を覗き込んだせいで、幸村は食べていた団子を喉に詰まらせかけた。

「なにしてんだ?」

お茶を一気に飲み干して、落ち着いた幸村の隣に許しも得ずに勝手に座る政宗。

「見て判りませぬか?団子を食べているのでござる」

プイッと、そっぽを向きながらも、その手はしっかりと団子の櫛を握っている。

「いや。解るから、訊いたんだが・・・」

団子を頬張る姿に、戦場で槍を振るう姿の雰囲気の違いに、政宗は興味を覚えた。

「甘いもん、好きなのか?」

茶屋の店主が出したお茶を啜りながら訊ねると、幸村は真っ赤になりながらも頷く。

「女子や子供のようでお恥ずかしいのですが」

「別に、いいんじゃねーか?」

恥ずかしいと言いつつも、団子を手放さない幸村を見て政宗は、戦場とはエライ違いだなぁ。と思いはすれども口には出さなかった。

「そういやぁ、アンタ。あの忍はどうした?」

「佐助でござるか?佐助なら、別の仕事に出ているでござる」

幸村が1人だけなのに疑問を抱いた政宗だが、当の政宗だって供を連れず1人で出歩いている。

佐助が不在の理由を説明した幸村の態度は、政宗が1人である理由を問うている。

「Ah〜。俺は、小十郎から逃げてきた」

手を振りながら大袈裟に話す政宗に、幸村はクスリ、と笑みを零した。

「執務を投げ出したのでござるか?」

「まぁな。最近は戦ばかりで、執務が滞っていたからなぁ」

溜まりに溜まった執務と、その部屋の惨状を思い出して政宗は渋面。

「しかし、それでは片倉殿がお困りでは?」

「困らせる為にやってんだよ」

むぅ、と不貞腐れた表情を浮かべた政宗は、茶請けに頼んだ団子を幸村に押し付け、自身はお茶を啜るだけ。

他愛の無い話を暫し交わしてから、政宗は帰城すべく立ち上がる。

片手を軽く挙げて去っていく政宗を見送ってから、幸村も自身の屋敷に戻るべく茶屋を後にしたのだった。