「何だか良く判らねぇけども。オラはいつきって言うんだ」
いつきが突然割って入る。
「いつき?」
佐助が視線をいつきに移すと、いつきは笑顔で頷いて答えた。
「片倉さんが、野菜の苗を欲しがっていたから、届けに来ただけだ」
「苗?」
佐助が聞き返す。
「ああ。折角植えた苗を鳥にやられてな。新しいのを頼んだんだ」
説明をした小十郎を、何故か佐助は睨んだ。
「そう睨むなよ。ちゃんと説明するから、茶でも飲もうぜ?な?」
幸村の肩を抱き、佐助を宥める政宗は物凄く珍しく小十郎を庇う言動を見せた。
改めて、縁側にて人数分のお茶を淹れて。
「で?説明してくれるんデショ?」
佐助の怒り方が怖い事になっていて、小十郎が若干、青ざめているように見える。
「説明する前に、コイツはいつき。北の地で米を作ってる」
「農民が、何で城で寛いでいるのかな?」
佐助の怒りは収まっていないらしい。
人の城で寛いでいるのは我らも同じでは?と幸村は思ったが、佐助が怖くて口には出来なかった。
「コイツは、ウチ相手に一揆を起こした事があってな。それ以来の付き合いだ」
「何と!?伊達軍相手に一揆を?」
「まぁな。負けちまったけども」
「そんな情報は聞いた事無いけど?」
「たりめぇだろうが。12のガキがリーダーの一揆集相手にしたなんざ、見っとも無くて情報が流せるか」
暗に情報操作はバッチリです!と言っている政宗。
黒脛布の苦労が知れる。
「で、な。漸く苗になった野菜を鳥に食い荒らされてなぁ。仕方なく、いつきに相談したってワケだ」
いつきの紹介が終わり、小十郎が説明を引き継ぐ。
「何で苗?」
佐助の疑問はもっともで。
「普段は種から育てるんだが、芽が出たところをやられてな」
「んで、相談されただよ。ちょうど、同じ野菜が苗になったところだったから、分けてやっただ」
微妙に言葉の足りない小十郎の説明に、いつきが付け足す。
「あ。な〜るほど」
ポンと手を叩き、佐助が漸く納得する。
「んだば、オラはもう帰るだな」
「ああ。成美に言えば送って貰えるぜ」
立ち上がったいつきに、政宗は送って貰えと言う。
「わかっただ」
一目散に駆けていくいつき。
「あの子。竜の従兄弟が居る場所、知ってるの?」
迷い無く走り去ったいつきを見て、佐助は呆れる。
「知ってんじゃねーか?」
「以外に成美と仲が良いからな」
伊達主従は曖昧に答える。
「で?先触れもなく、突然の来場の理由は?」
「うっ!」
今度は、政宗が質問する。
「つい最近さ、前田の風来坊が上田城に乱入して来てね。まぁ、本人は観光のつもりだったみたいなんだけど」
「前田の風来坊?ソイツなら、ウチにも来たな」
佐助が幸村の代わりに説明すると、聞きたくない名前が出た。
その名前に、政宗だけではなく、小十郎も嫌な顔をしている。
「で?その風来坊がどうしたんだ?」
「ん〜?それがね、旦那に恋話をしだしてさぁ〜」
「…幸村。また、破廉恥って騒いだのか?」
佐助の説明に、幸村の態度が想像出来たのか、政宗は面白そうに尋ねるが、当の幸村は真っ赤になたまま、喋らない。
「破廉恥って騒ぐだけなら、いつもの事デショ?」
「Ha?」
「城でね、竜の旦那に逢いたいって騒ぎ出しちゃった、つーか。叫んでさ」
「それは、煩せぇな」
想像に容易いのそ姿を思わず想像し、感想が口を付いた小十郎を誰も責める事が出来なかった。
「でしょ?で、大将がとうとうキレちゃった」
てへっ、と笑う佐助の言葉に、政宗は少しだけ信玄公に同情した。
「・・・で?」
何となく、展開が予想ができたが、取り敢えずは聞いてみる。
「逢いたきゃ、逢って来い。ついでに泊まって来いって、言われたの」
説明を終えた佐助は、お茶を啜る。
「ま、好きにしな。それより、門で止められなかったのか?」
幸村と佐助の登場に門番からの連絡無かった事を聞くと。
「へ?すんなり入れてくれたけど?」
「うむ。成美殿が政宗殿は中庭だと教えてくれたでござる」
「仮にも、敵将とその忍を顔パスかよ」
「馴染みすぎだな。注意せねば」
2人の言葉に、政宗と小十郎は自軍の門番の警戒心の無さに呆れてながらも、幸村と佐助が馴染みすぎている事をしみじみと実感したのだった。
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