「んだば、オラの用事さ終わったし。帰るだ」

いつきはニコリと笑いながら立ち上がろうとした。

「政宗殿!」

いつきが立ち上がるよりも早く、米沢城の中庭に幸村が佐助と供に乱入してきた。

「幸村?」

湯呑みを持ったまま、政宗は固まる。

いつきは幸村の登場に驚いて、帰るタイミングを失っていた。

「まったく。門番のヤロウ。顔パスで通しやがったな」

「政宗殿?その女子はいったい?」

政宗の呟きが聞えなかった幸村は、縁側で政宗の隣に座るいつきの事が気になった。

「Ah?」

「政宗。アイツさ、誰だ?」

いつきは座ったまま、幸村の事を指差して政宗に聞く。

それを見た幸村は俯いてしまう。

「旦那?全く。仕方ないねぇ」

俯いて、黙ってしまった幸村の頭をポンポンと叩くと、佐助は政宗に視線を投げた。

「Ah〜。幸村?何か誤解してないか?」

佐助の視線を黙殺して、持っていた湯呑みを置いた政宗が幸村に近付くと、幸村は政宗が近付いた分だけ後ろに下がる。

「幸村?」

仕方なく間合いを詰めずに話しかけると、ビクンと幸村の体が反応した。

政宗は幸村が怯えないように、そっと肩に手を置いた。

「!・・・やっ!!」

パシン、と軽い音を立てて、手を叩き落とされる。

大して力が入っていなかった為に、叩き落とされた手は痛くは無かったが、目に涙を溜めて泣くのを我慢している幸村の表情を見てしまい、政宗は驚いてしまった。

「ちょっと竜の旦那?泣かせないでよね」

佐助も驚きはしたものの、ここは付き合いが長い分立ち直りが早く、すぐさま政宗を責める。

「俺のせいかよ。幸村?どうした?」

幸村との距離を一定で保ちつつ、政宗は優しく話しかけた。

「政宗様?」

畑帰りと判るいでたちの小十郎に佐助が話しを聞こうとしたが、それよりも早く、幸村が口を開いた。

「あの、女子は誰でござるか?政宗殿とどのような関係で?」

流石に指を指す、という事はしなかったものの、誰の事を聞いているのかは馬鹿でも気付く。

今、この場に女子は“いつき”だけ。

「Ah?いつきの事か?アイツは小十郎の客だぜ」

政宗の言葉に幸村は安心し、佐助が動揺する。

「小十郎さんの!?」

バッと佐助が小十郎を見ると、キョトンとした表情のいつきの近くに立っている。

「政宗様。必要な説明を省くのはお止めください」

溜息を吐く小十郎を佐助は殺気の篭った目で睨む。

「小十郎さん?その、必要な説明を代わりにしてくれるよね?」

笑顔を浮かべた佐助だが、目が笑っていない。

政宗はさり気なく、幸村の隣に立つ。

「猿飛・・・目が笑ってないぜ」

流石に竜の右目も、己の愛しい人には敵わないらしく、珍しくたじろいでいる。