文を読み終わり、事態を理解した幸村は項垂れている。

「幸村?」

「政宗殿。お世話になりまする」

がっくりと項垂れる幸村に声を掛けた政宗に、幸村は両手を付いて頭を下げた。

「まぁ、忍の様子や、外の様子を見てる限りじゃ、『戻れ』と書かれていても、帰す事は出来ねぇけどな」

ポンポンと宥めるように幸村の肩を叩く政宗に、幸村は何故?と言うように首を傾げた。

「本格的な吹雪になってきてる。帰すには、遅すぎたな」

政宗の言葉に、幸村は外から聞える風の音が激しくなっている事に気が付いた。

「本当に、奥州の冬は早いでござるな」

外の様子を窺う気にもなれず、幸村は傍にあった火鉢の灰をかき回し始めた。

「あぁ。雪がちらつく前には帰すつもりだったんだが・・・」

「仕方ありませぬ。某にも責任はあるでござるから」

幸村がかき回した火鉢の中に、政宗は炭を足す。

「ま、俺も甘く見てたからなぁ。今年は思っていたよりも雪が早くて驚きだぜ」

炭に火が移るのを確認してから政宗が障子を少しだけ開けると、風に乗って舞う雪が見えた。

障子をほんの少しだけ開け、火鉢で暖を取っていた政宗と幸村の耳に、テトテトとわざと立てているらしい足音が聞えてきた。

「お湯、ありがとーございまーす」

素早く室内に入り込んだ佐助が明るく言うと、幸村と政宗の2人は苦笑いを浮かべた。

「え?何?どうしたの?」

「失礼します」

2人の表情に佐助が首を傾げると同時に、小十郎が四人分のお茶を用意して現れた。

「何かあったのですか?」

取り敢えず、といった感じで声を掛けながら小十郎はテキパキとお茶を淹れる。

「小十郎。冬の間、幸村と忍を奥州で預かる事になった」

「は?」

政宗の説明に反応したのは佐助。

「冬の間とは、春先までですか?」

小十郎は冷静だ。

「はい。お世話になります!」

小十郎に笑顔で答える幸村を見て、佐助はポカンとしている。

「・・・竜の旦那?」

ニコニコしている幸村を眺めながら、佐助は政宗に声をかける。

「諦めろ?信玄公からの文もある。返事は要らないだろう」

政宗はニタニタと笑いながら、佐助に信玄からの文を手渡した。

渡された文に目を通した佐助は、乾いた笑い声を上げるしかなかった。