奇跡の確立
事故に遭って死んでしまって、気がつけば私は転生していた。
――仁王雅治の成り代わりとして。
でも運が良いのか悪いのか、また女として産まれることが出来たので、自分の好きなように人生を送らせてもらってる。
夢小説にあるような罪悪感なんてないし、第一、女という時点で原作なんて崩壊したも当然だから。我ながら、結構前向きな人間だと思う。
だから産まれてきて早14年、ほどほどに充実した毎日を過ごしていたのだ。

それが今、私の目の前には、何故か仁王雅治がいる。



「結構早起きなんじゃな」
「いつもの仁王が遅いだけだと思う」

朝起きてソファーを見ればそこには仁王がいた。なんど目を擦っても頬を抓っても消えない。本当に彼は原作の仁王だ。
現在の時刻は六時。電車通学をして、更に満員電車を避けたいならば必然的にこの時間になってしまう。
適当に食パンをトースターに入れてソファーに座る仁王の隣に腰掛けた。
我が家の家族はみんな出張や用事で出掛けてしまっていて、二人きりの家は少し物寂しい。

「仁王って、名前も仁王じゃろ」
「……確かにそうだけどさ」

雅治、なんて呼びづらいことこの上ない。
そんな事を言えば、からかわれることは目に見えているので私は口を噤んだ。
呼びづらいのは、転生する前に仁王仁王と言っていたからであって、決して恥ずかしいとかそんな感情があるわけでは……ない。

「そんなことより、戻り方とか考えたほうがよくない?」
「いきなり話しを逸らしたのう」

にやにやと厭味な笑いを向けてくる仁王から顔を背けた。

数日前、いきなり仁王はここにやって(降って)きた。
漫画のイレギュラーな世界に正規の世界からキャラがやってくるのを「逆」と呼んで良いのかは分からないけれど、いわゆるこれは逆トリップだ。
波瀾万丈な人生だったけど、存在自体が不明な神様をこんなにも恨んだのは初めてかもしれない。
仁王本人と言えば、初めこそ動揺しているようだったが、従応性が高いのかいつの間にかストテニに訪れたりして以外と普通の生活を送っていた。なんともちゃっかりした奴である。
生産性のない話を二人でぐだぐだと交わして、さあそろそろ学校の準備をしようと立ち上がったそのとき、元凶である仁王から一言。

「今日は俺も学校に行くなり」
「……え?」

トースターからチンと軽快な音が鳴った。
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