停滞する空想は ――常勝立海、有名なテニス部のレギュラーである仁王が自殺した。 そのニュースは瞬く間に広がり、俺達青学の耳に入るのにも大した時間は掛からなかった。 関東大会、全国大会決勝と何かと因縁がある俺達、青学と立海。 時にはかなり危ない試合もしたし、実際にそうだった。その中でも、特に仁王は英二にボールを当てて、失神させた選手だ。 勝つためには手段は選ばない。彼等の考えは納得できないが、理解はできる。俺だって行けることなら上に行きたいし、ずっとテニスをやりたいから。ただ、立海はそれがやり過ぎただけで、きっと目指す所は一緒だったはずなんだ。 とにかく、そんな仁王だったが、ちゃんと試合後には柳生と一緒に謝罪して、英二の体調を気遣ってくれていた。だから、少なくとも悪い奴じゃないっていうことだけは確かだろう。 関東大会終了後、帰り道の途中でその考えを英二に言えば、行動はいちいちカンに障るけどねー、と笑って返してくれた。 それがつい半年前のこと。 そして昨日、仁王は死んだらしい。 自殺する原因なんて、部外者である俺達には全くわからない。 だって、大会で戦っただけの学校だ。俺達が知るあの学校のテニス部は、ストイックで、ひたすら勝ちにこだわるということだけだ。 特別な会話なんて全然していないし、覚えてすらいない。強いて言うならばさっきの会話くらいだろう。 分類するなら彼らは他人。知り合いと言える関係なのは手塚と真田くらいだ。しかしそれでも、まだ友人とは言い難い。 つまるところ、試合相手と言えばそこまでの存在だった。 だからこの訃報は、俺を驚愕させただけであり、それ以上のものは何も与えることはなかった。 噂では、どうやら虐めによる自殺だとのこと。 厳しい代わりに、団結力も強かったあの学校がそんなことをするとは到底考えられない。俺の先入観だけで言うとそうなる。 真実は分からない。 真相は興味がない。 何故なら、俺にとってこの事件はそこまで知りたいと思う程のものではないから。 気になると言えば気になるけれど、ニュースや雑誌の情報だけで、充分だと判断しているから。 その態度はまるで他人事のようだ、と言われても、事実彼らとは他人なのだから。 でも、もしも噂が本当だとしたら、俺は絶対にこう思う。 ―――立海は、青学には絶対勝てない。と 翌日、その立海との練習試合がキャンセルされた。 何が起こったのかは分からない。 でも、またいつか機会があったその時は、彼らといい戦いができることを願っておこう。 全力を尽くし、悔いのない戦いになることを願っておこう。 他人である俺らが出来ることは、それくらいが限界なのだから。 堕ちて消え逝く挨拶に ← →
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