∴双識成り代わり 3 後編


長くなったから後編です
復活と掛けてみました




「――で、名前は?」」
「……ん?」
「前世の名前だっちゃ。まさか忘れたとかはねーちゃよな」
「……あぁ、名前ね」

双識はそこで先程以上に嬉しそうにニッと笑った。
双識らしからぬ笑い方だな、と軋識は思った。

「零崎 月莉だよ」
「……は。零崎って、」
「うん。偶然だったんだよねぇ。
 いやぁ、まさか苗字が被るとは思ってもみなかったけどさ」

あのときは驚いたなぁ。
双識――月莉はそう言いながらソファーにもたれ掛かる。

「――とある少女っていうのはレン……、月莉のことだっちゃよな」
「あぁ、そうだよ」
「殺されたって、何があったっちゃ?」
「……嵌められたんだよ、アス」
「は?」

正直思い出したくもないけどね。
そう月莉は前置きをしてから話し出した。
そこから先の双識は月莉だった。
話し方も仕種も月莉。
そして淡々と、昔の話を紡いだ。


「――くだらねー奴らっちゃな、そいつら」

全てを聞き終わってから、軋識は毒々しげに言葉を吐き出した。
手に持っているコップの中のコーヒーが震えてこぼれかけている。
それは動揺からなのか、怒りからなのかは本人にもわからなかった。
ただ久々に、無性に零崎をして人を殺したくなった。
それだけだ。

月莉の話はひどい内容だった。


――私、これでもね、けっこう人気者だったんだよ。。……あれ、これ《双識》で話した方がいい? あ、そう。ならこのままで。
人気者だった、とは言っても、媚びを売ってたわけでは勿論ない。
普通に、ただ普通の生徒たちよりテストで高い点をとって、人に対して優しくして、陰口などを言わずに生きてただけさ。
正直、誰にもできることをしていただけ。
そんな学校生活がずっと続いていてね、卒業するまで続くと錯覚していたんだ。
そう、錯覚。
思い上がりとも言うよ。
人間、鬼もだけど、隙を見せたらいけないね。
今なら当たり前のことだけど、そのとき一般人だった私はすっかり忘れていたんだ。
そして中学二年生の秋に、悪夢はやって来た。
一人の女の子が転校してきたんだ。
名前はたしか――烏紫那 玖奈だったっけな。
アスには迷惑な話だと思うけど、友ちゃんの『玖』が名前に使われているんだよね。
私も、友ちゃんには正反対な性格をしたアイツを見た瞬間に、嫌悪感が湧き出たよ。
うふふ。こう見えても前から人を見る目はあったからね。
そして嫌悪感とともに思ったのは、この一言。
――試験を受ける前から失格だ。
今も昔もアイツを他においてそんな奴はいないと思うよ。
それくらい最低だった。
後ですぐにわかったけど、
男は媚びを売る対象か、自分の駒。
女は自分の引立て役。
そう考えている奴だったんだよね。
まあ冒頭はここまで。
次は、ありえない虐め編。

アイツが転校してきた一週間後に、私の机に手紙が入っていた。
『昼休みに屋上に来い』
確かそう書いてあった。
私は律儀に屋上に行ったさ。
呼び出したのは勿論アイツ。
ありえないことに数分遅れて来たけどね。
話の内容は至ってシンプルだったよ。
『人気者な私がウザいから消えてくれ』
いや、当たり前だけど、そんな要望は断ったよ。
私がアイツの為に消える理由なんてどこにもないからね。
さて、私に断られたアイツは次なる行動に移った。
『じゃあ、人気者から嫌われ者になってしまえ』
とね。
どうやら自分が一番の人気者に成りたかったらしい。
そしてアイツは自分の腕をカッターで切ったかと思うと、いきなり叫び出したんだ。
私は何のことやら、と茫然としていたね。
そうこうするうちに生徒たちが集まって、集団リンチさ。
なんでもアイツを傷付けた罰、らしい。
あぁ最悪、最低な奴らさ。
その同級生の中にはマフィアの次期ボスとファミリーたちがいたんだよね。
何故かアイツもそのファミリーに入っていたらしくてさ。
だから打撲以外にも、根性焼きやら野球バットやら刀で切られたり、高圧電気に幻覚汚染、最終的には三叉槍で刺されて炎で炙られたり。
のちに、屋上から落とされたかな。
その前に一回だけ犯されたこともあった。
だから、マフィアなんて私は嫌いだよ。
ありえないだろ?
今までずっと仲が良かった、いや、慕っていた奴をアイツらは手の平を返したように殺す気で傷付けたんだよ。
それこそ身も心も、だ。
勿論同級生たちもそうだったけどね。
お陰で転生しても、しばらく人間不信の男性恐怖症になっていた。刀と煙草も駄目だったね。
アスも少しくらい覚えてないかい?
流石に大戦争辺りになったときはだいぶ治っていたはずだけどね。
とにかく、それくらい傷は深かったってわけだ。
私はアイツらを一生赦さないよ――。


「大体、なんで誰もそいつが自作したって思わないっちゃ。まじでありえねーな」
「それほどアイツらが馬鹿だったってことだろう。さ、私の話しはこれで終わりだよ」
「ちょ……ちょっと待て。これから俺の前でくらいは《双識》じゃなくて、《月莉》でいて欲しいっちゃよ」

何でだい?
と首を傾げる月莉。

「……ありのままが一番いいっちゃろ?」
「まあ、ばれてしまった以上は仕方のないことだけどさ……」

手を顎に当てて、考えている様子だった。
きっと今、こいつは《物語》と《自分》を天秤にかけているのだろう。
軋識がそう思った瞬間に、月莉は口を開いた。

「じゃあ、そうさせてもらうよ」

と。

「――いいのか?」

思わず、軋識は確認してしまった。
しかし月莉は――双識と同じ笑顔になって――言った。


「だって愛する家族の願いじゃないか!」




ひとまず、軋識に自分のことを話した話。

月莉ちゃんはクールでしたからね。
元々話し方が双識と似ています。
そしてやっぱり家族が一番らしいです。
まあ、あの過去を見ていただけば分かると思いますが。
依存ではありませんよ、勿論。
軋識は好きですが、愛ではないです。
でもきっといつか落ちるはず。
長年ずっと一緒にいたからこそ言えた自分の過去。
絆というか、信頼があったんだと思います。

月莉ちゃんが人間試験を行うのは、双識の理由はどうであれ、人間不信だったから。
合格。
不合格。
今は零崎だから殺すのなんか躊躇いもないはずですが。
人に怯える殺人鬼。
昔はそうだったはず。
ただ純粋にこの世界を、物語を愛していたからこそ守ろうとした狂気。
最終的には人間試験とは違い、生きることになりますけどね。

月莉ちゃんいいなぁ。
というかむしろ復活とかけて、再会させてみようかな。
復活→戯言→戯言×復活
みたいな。
一賊メンバーは兄弟とかだったらいいかも。
いーたんとかは、同級生とか。
復活メンバーは転生したと知りません。勿論骸も。
うんいいなこれ。
連載は――面倒だけど。





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