∴手遅れな女の子の話(多重トリップ)
この世界もまた、終わっているのだろうか。
わたしは諦めに似た感情を抱いて、辺りを見回した。
――はじまりはわたしが車に引かれたことだった。
テンプレのようにあっさりと死んで、テンプレのように神様と名乗る男に出会い、テンプレのようにわたしは最強設定になって、わくわくしながら漫画の世界にトリップした。
――゛死んじゃうキャラを、わたしが救うんだ!゛
そう、心に決めたはずだったのに。
最初に行ったのはマギの世界。カシムを救って、アラジンたちに感謝されたい! とわたしは内心期待しながら息巻いていた。
……なのに、着いたときには時すでに遅く、彼らはとっくの昔にシンドリア国に行ってしまっていた。こういうこともあるよね、と自分に言い聞かせて、めげずにわたしは世界を飛んだ。
次はハリーポッターの世界。シリウスやルーピン、スネイプ先生は絶対に死なせない! ……そう考えていたはずなのに、なぜか日本にトリップしてしまったわたしは、着いたと同時にヴォルデモートの死を風の噂で聞いた。
次はハンターハンターの世界。今度こそ、カイトさんこそはと決意していたのに――わたしはネテロ会長の最後の演説の映像を、ぼんやりとしながら街で眺めていた。
次はぬらりひょんの孫。――ちょうど目の前で鯉伴は刺されて死んでしまった。その次はワンピース。――頑張ったのにエースは死んでいた。さらに次は戯言シリーズ。――すでに零崎は滅亡。だったらその次は……次は――……。
……どこに行っても手遅れだった。
わたしが何かをする前に全てが終わっていた。
いくらわたしが最強設定だからって、亡くなった命は生き返らせられないと、あのとき神様は言っていたのに。殺される前に助けばいいだけだと、甘く考えていた自分をわたしは恨んだ。
だって、みんなもう死んじゃっているんだもん。
手遅れ。後手。どうしようもない無力感。
いつの間にか、わたしは流す涙すら枯れてしまった。
「……ここは――」
「6-0、ウォンバイ幸村!」
わぁわぁと歓声が響く。テニスコートに群がる平和そうで無力そうな人々のざわめき。聞き覚えのある名前が、真っすぐにわたしの鼓膜を刺激した。
「……ゆき、むら……?」
なんてこと。本当に平和な世界にわたしは来てしまったのか。幸村でテニスといえば、テニスの王子様の世界しかありえないはずだ。
「そっか。とうとう追い出されちゃったんだ――」
戦闘も死もない。昔のわたしが暮らしていた、平凡で幸せな普通の世界。なにも救えないわたしは、神様に見切られて捨てられてしまったのだろう。
テニスコートの真ん中で、嬉しそうにトロフィーを手に持つ幸村少年を見る。数年後に彼は病に倒れる。この世界での事件と言えば、それと立海が大敗するくらいだ。誰かが死んだりすることを思えば、全然たいしたことのない事件――。
わたしは目を細めた。初めて間に合った世界。どうせ神様の都合で立海に入学することになるんだ。でも、わたしはこの世界には介入する気はない。
だって、どうせ無意味だもの。
昔のわたしだったら、なにがなんでも大好きだった立海を優勝させようと足掻いただろう。でも、とわたしは呟く。でも、そんなことは頑張れない。
きらきらと無邪気に笑う男の子の笑顔と、帽子を被って悔しそうにしている男の子。手を出せば、逆に崩してしまいそうな形がそこにはあった。
「……そうだ。これからは傍観をしよう」
どうせ手遅れになるならば、行動が全て無意味になるならば、わたしはずっと傍観して、彼らの最後までを見届けよう。
わたしが呟くと同時に、どこかで、神様の笑い声が聞こえたような――そんな気がした。
――――――――――
手遅れな世界にトリップしてきた女の子の話。マギではカシムが死んでいたり、ハリポタではルーピンが死んでいたり。どこに行っても手遅れだと気づいた女の子は、やがて傍観をすることを始めました。
人気キャラが死ぬ有名所は全て回ったけれど、全てが全て手遅れ。きっと神様は確信犯です。
ちなみに庭球の世界は女の子が原作沿いにさせればさせるほど、世界がおかしくなっていきます。(キャラが死んだり、ありえない展開があったり。)
自分で原作を壊すか、神様に壊させるか。どこまでいっても爽やかシリアスを目指したいです(謎)
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