∴幽霊少女ちゃん(with柳生)
いくらSFが好きだからと言って、それがフィクションであることは重々承知しているし、ましてや幽霊なんて非科学的かつ空想の代物だ。現実主義なわけではないが、そんなもの、存在しているわけがない。
―――つい、最近までそう思っていた。
立海の屋上庭園に柳生はいた。
その横には少女がちょこんと座っている。
少女の着る制服は折り目正しく、校則をなに一つ破っていなかった。それだけなら、風紀委員の柳生からすれば何も問題はない。だが、実態は問題だらけであった。なにしろ――、
「君みたいな人、久々に会ったよ」
にこりと柳生の顔を見ながら少女は笑う。
その少女の脚は、先端がうっすらと透けていた。
そう、彼女はいわゆる幽霊というものだった。
***
「幽体離脱の可能性はないよ、やぎゅーくん」
彼女の声は脆く、儚い響きを含んでいた。そして、いつも不思議なイントネーションで柳生を呼んでいた。最初の頃こそ柳生は毎回それを訂正していたものだったが、慣れとは恐ろしいもので、最近では逆に彼女の呼び方に安心してしまっていた。
「どうしてですか?」
「だって私がこうなったのは数十年前だからねー。仮に幽体離脱していたとしても確実に死んでるよ」
彼女はさらっとそう言い放つ。
柳生の困った顔なんてまるで気にしていない様子で、幽霊少女は屋上庭園にあるベンチに腰かけて、脚をゆらゆらと前後に振っている。
気まぐれ屋というべきなのか、たびたび見せる飄々とした雰囲気は自分のパートナーに似たものを感じられた。
風が吹く。一拍置いてから柳生は口を開いた。
「じゃあ…貴女は……」
「成仏するのを待つしかない存在だね」
「……」
「…黙らないでよ、やぎゅーくん。私が悪いみたいじゃない」
いったい何年間彼女はここにいたのだろうか。ずっと一人で、数年にいるかいないかの確率でしか自分を見てくれる者がいなくて。それすら、皆が皆会話をしてくれるわけではないのだ。精神的にも存在が希薄になってゆくのは仕方ないことではないか。
だったら、いまここで彼女が見える自分にできることは、
「―――貴方の成仏の手伝いをしますよ」
「へ?」
ぽかんとした彼女の手を取る。
冷たくて、生気が感じられない白い手―――でも、いつか暖かくさせるために頑張りたい。
心中で柳生はそう、固く誓った。
***
「好きなのに成仏させるって、やぎゅーくんは本当におばかさんだね」
それを言わせたいだけ。
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