∴紫苑と双識さんの会話


その日は少し肌寒い日だった。
紫苑は、ネズミから貰ったコートを羽織り、当てもなくぶらぶらと廃墟を散歩していた。いくら寒いからと言って、ずっと部屋に引きこもっていては、身体に悪いと思ったからだ――。というのは建前で、まだ知らない場所を見てみたいという好奇心からの行動だった。
それを知ってか知らずか、ネズミには呆れられたような顔をされて、本に埋め尽くされた家というには些か戸惑う住居を後にしてきたばかりだった。確か家を出る直前にネズミから、「《首斬役人》には気をつけろ」と言われたが、本人もそれ以上のことは知らないらしく、とにかく試験には合格しろと言うだけだった。

そんな《首斬役人》について徒然と考察をしながら、時々吹く風に紫苑は身体をふるりと震わせ、コートの前を覆うと、また意味のない散歩を続けた。
と、そのとき、

「――うわっ!」

今は冬だというのに、寝ぼけて出てきたのか、いきなり蛇が紫苑に襲い掛かってきた。
種類は世間一般的に青大将と呼ばれているもの。しかもかなりの大きさだった。故に噛まれたら毒は所持していなくても、大怪我は必須であるのは一目瞭然である。

――まずい、噛まれる!

そう思い、紫苑は目を瞑ろうとしたら、ザシュッ、という肉を裂く軽快な音と共に、目の前の蛇が真っ二つに両断されていた。
噴き出す鮮血が、地面をじわじわと黒く染めていく。

「な…、ぇ…え?」

突然起こった事に、優秀だと高く評価される頭脳も処理が全くできなかった。 混乱している紫苑に、後ろから声が掛けられる。

「うふふ、大丈夫かい少年くん」
「え、あ…はい」

ハッと顔を上げると、そこには十四、五歳辺りと思われる子供一人、立っていた。 よれたカッターシャツにぶかぶかのズボン、少し乱れたオールバックにしている髪は肩まで伸びている。 そのお陰で性別は男とも女とも考えられた。 眼鏡の奥にある赤い瞳は、妖しくきらりと光って、紫苑を見つめていた。
呆然とする紫苑の無事を確認して、目の前の男の子は嬉しそうにまた、うふふと笑う。 どこか薄気味悪く思わせるその笑いに、混乱から醒めた紫苑は内心戸惑いを覚えながら口を開いた。

「ぼくは少年と呼ばれるほど幼くはないよ」
「うふふ。まあ、普通はそうだろうね。でも、見た目で歳は決め付けてはいけないのだよ?私だってこんな姿をしているが、実はとうの昔に成人している可能性だってあるのだからね。
おっと、そうは言っているが、私自身はただの十五歳の少年さ。見た目通り成人をしてはいないよ」
「……そうなんだ」

自分より一つ年下だった。
それにしても、こんな人には初めてだ。いや、飄々としている人自体は幾人か知っているが、少なくともこんなに変わってはいない。
紫苑は好奇心に突き動かされて、もう少し話してみたいと思った。
所詮は物珍しさからのものだとネズミにも指摘された事など、とうに頭から抜けていた。
そして、好奇心は時に仇となることも。

「君、名前は?ぼくの名前は紫苑」
「紫苑くんか。紫苑というのはキク科の多年草から取ったのかな?なかなかいい名前だね。名付けた親御さんはよっぽどいいセンスを持っていると見受けられる。何せあの花は多年草でありながらとても綺麗に咲いているんだからね。誇りに思うべきだと私は思うよ。――おっと危ない、忘れるところだった。私の名前は零崎双識さ。双識でも双識兄さんでも。いっそのこと、お兄ちゃんでもいいよ?」
「――普通に双識でいい?」

そして物凄く饒舌だった。
早口かつ長い会話は、聞いているこちらを軽く疲労させるほどである。

「それにしても、双識はよく紫苑を知っていたね。褒められたのは初めてかもしれないよ、ありがとう」
「いやいや、そんなことはないさ。長兄として多くの知識を持っていることは基本的なことだからね。礼にはおよばないさ」

双識はニコニコと笑顔で蛇の死体へと近づいた。
ショックでよく見ていなかったが、死体に紛れて何かが鈍く光った気がした。
そして躊躇なく双識は死体の近くに屈んで、その何かを取る。

「―――鋏?」

そう、鋏だった。
というより鋏としか紫苑には形容ができない代物だった。

「そうだよ。これは私の相棒でね、《自殺志願》と言うんだ」

変わった名前だった。それ以前に鋏に命名など普通はするのだろうか。
双識はうふふと笑いながらその大鋏を器用にくるくると回す。回転する度に蛇の血が辺りにぽたぽたと落ちていた。
幸い紫苑には掛からなかったが。

「――紫苑くん。君は合格だよ」
「え?」

蛇の血がまたぽたり、と落ちた。
とうとう地面はよくわからない色合いになってしまっていた。

「…合格?」

試験じゃあるまいし――と紫苑は考えたところで思い出した。
ネズミが家を出る前に言っていた言葉。

――首斬役人には気をつけろよ。そいつからの試験には絶対合格しろ。
――どうして?
――殺されるからだ。

……。


紫苑は蛇を見る。
蛇の身体は、頭と胴体がすっぱりと二つに裂かれていた――。


暗転。


*

力尽きた。
これ以上は無理だよ\(^q^)/
ショタな双識さん可愛いぃいいいいいい!!

双識さんたち零崎一賊は二週目ですよ。
《自殺志願》とは運命の再会です。
きっしー以外の他の人達とは、ばらばらです。
きしりんと、いちゃこらしてればおいしいよ。うへへ。

双軋および零僕と曲潤前提の話。
零僕零かも。
いっそ零→僕友。
超俺得!なんて素晴らしい響き!!

このあと紫苑は気絶したので双識さんに介抱されます。
紫苑は殺さない。だって合格したし。





prev top next
×
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -