∴人識憑依


人識くんに憑依です。
いえーい←




気が付けば、私は彼に憑依していた。

私の最後の記憶は、クラスメイトの女子によって、屋上から突き落とされたときに見えた、憎いほどに澄んだ青空だ。
なんでも、突き落とされた原因は、私が男子に近づきすぎたから、らしい。
その女子は、一体、私を殺して何をしたかったのだろう。
私如きが消えただけで、その子が幸せになるわけがないのに。
いや、でも、人の幸せは十人十色だ。
きっと彼女は、それが私の死だったのだろう。

と、ここまで思考して、現状を見る。
私に身体はない。
わかるのは、誰かの視点を通して周りを見ている、ということだけ。
それも、私の意思ではない行動だ。
どうやら、この主導権は彼にあるらしい。
彼、と分かったのは先ほど、父親らしき人が、男の子だ!!と叫んでいたから。
身体を見るに、生まれたばかりの赤子なのだろう。
そのうち、私は意識が落ちてゆくのを感じて、そのまま眠ることにした。


*


「かはは、これ、どうしようか」
「(私に聞かれても、知らないよ。 というか、自業自得)」

時は流れ、この身体の男の子、人識は十四歳になった。
最初は殺人鬼やら何やらで結構大変だったけれど、今はすっかり慣れてしまった。
勿論、それは死体にも、だ。
今、私たちの目の前にはバラバラになった死体がある。
バラバラにしたのは人識だ。
されたのは女子生徒。
どうやら、この女子は人識に恋をしていたらしく、告白した瞬間に殺られてしまったのだ。
運の悪いことに、今日は日曜日。
学校外だったから、今の彼は俊希(ニンゲン)ではなく人識(サツジンキ)である。
仕方のないこと、と言えば、それで終わりなのだが。

「解体してやったのに、なぁ」
「(…人識のそれはレンアイ違いだと思うよ)」

解体は恋愛ではない。 殺人だ。
果たして人識に、そんな知識があるのか謎だけど。
自由奔放なこいつは知識さえあやふやだ。
頭は無駄にいいが、変なところでおかしい、そんな人識を時々フォローしている私が、常識人でよかったと常々思うのだ。

「いーじゃん別に、恋愛でも解体でも。
殺人は愛の行動だ、ってあの変態兄貴も言ってたし」
「(……はぁ)」

微妙に違う。
愛から殺人をしろ、と双識さんは言っていたのに、何故そうなる。
そして、いい加減に、一人で呟くことに人識はまずいと思ったのか、思考のみで会話を続けた。
死体は、放置。
どくどくと、血の海ができている。

「(という訳で、俺は面倒だから、後は任せたぜ)」
「(――は?)…ちょっ!」

身体がふらり、と倒れたかと思うと、自然と私に主導権が変わった。 倒れたら私も痛いので、ほぼ反射的な入れ替わりだ。
というより、何故こんなところで人識は投げやるのやら。
とにかく、この現場から離れようと、私は踵を返して、家の方角へと向か―――、

「おやおや、人識くん。 殺人をしたら放置せずに、私か家族に連絡をする約束をしたはずだよね?」

…えなかった。
目の前にいたのは人識が兄貴と呼ぶ、零崎一賊の長男の、双識さん。
こんな真昼間からオールバックにスーツを着込んでいる。 見るからに暑そうだ。

「……兄貴」
「おや、今は人識くんじゃないのかい?」

しかも、人識じゃないと一発で見抜いてきた。
どんな観察力なんだ、この人は。
とりあえず、人識の演技だ演技。
ばれるのはなんか嫌だ。 変態だし。
きっと、ろくなことがない。

「は?何言ってんだよ。 とうとうこの暑さで頭が沸いたか?」
「うふふ…、そんなに白を切らなくてもいいのに。
名前はなんて言うのかい?」
「(…こうして見ると、ホントに兄貴がただの変態に見えるな)」
「(人識煩い。黙って)」

実際に、私がいなかったら、双識さんはかなりイタいことをしている人になるのは事実だけど。
私は人識と同じ態度で双識さんと話しを続けた。

「知らねーよ。
大体、なんでそんな事を思うんだ?」
「勘だよ。 後は私の今までの観察から、かな」

双識さんはうふふ、と笑った。
笑い方が様になっていて、かっこいいと思う。
というより、

「……(うわぁ)」
「(つまりそれは、俺をずっと見てるっつうことか?)」

私、少し引きました。
ごめんなさい。
尊敬はしてるけど、流石にそれは怖いよ。

「ほら、そこが人識くんと違うところだよ」
「へ?」
「人識くんなら、叫んで私に突っ込むからね。
うふふ、それで、お嬢さんの名前は?」

ばれた。
モロにばれた。
…しかも性別まで。
流石にこれ以上は無駄だと悟り、私は両手を上げて溜め息をついた。
諦めの早さは昔から変わらないものの一つだ。

「はぁ、参った。私の負けだよ双識さん」
「やっぱり当たってたね。しかも女の子だ。
これは嬉しいなぁ!
……それで、名前は何と言うんだい?」
「――無織、です」

正直、踊りださんばかりに嬉しそうな双識さんに名乗りたくはなかったが、負けは負けだ。仕方がない。
私が名乗ると、更に双識さんは暴走して、抱き着いてきた。

「無織ちゃんかぁ! 可愛いねぇ!!
私のことはお兄ちゃんって呼びなさい!!
それに敬語もいらないよっ!!」
「は、…あ、うん(人識どうしよう。双識さんが怖い)」
「(……ぜってー俺に変わるなよ。抱き着かれるとか嫌すぎて死ねるからな)」
「(…へぇ)」

げんなりとした人識の声を聞いて、無理矢理私は変わってやった。
さっきのお返しだ。あとは出来心←
双識さんの腕の中でぎゅうぎゅうに抱きしめられて、人識は苦しそうに声を漏らした。

「(ちょ…!てめぇっ!!)……う」
「――なんでここで人識くんに変わるんだい?」
「はぁ?」

…どうやら双識さんは直ぐに分かったらしい。
何と言うか、凄い人だと思った。


*


そして、それからというものは、私と人識は双識さんの追っかけ(ストーカー)に悩まされる事となるのであった。


「人識くん! 人識くん!!
無織ちゃんと変わってくれないかい?」
「ぜってー変わらねぇ!
つうか兄貴に無織はやらねぇからなっ!!」
「…あいつら何言ってるっちゃ?」
「そんなレンも…悪くない」






憑依楽しいなー。
無織ちゃんは人識と任意でなくても変われます。
でも主導権はあくまで人識です。
いいですよねー人識くん。
キャラが好きです。

無織ちゃんは素の名前です。
親のセンスを疑いますけど(笑
ちょいと無関心無表情な子です。
だからこそ、双識さんは見抜けたのかも。
人識に憑依していても、双識さんは普通の対応をしています。 流石双識さん。

人識は、無織ちゃんのことを姉のように感じています。
依存ではありませんよ。
彼が認める家族です。
人識曰く、
「俺が家族と認めるのは、無織と兄貴だけだ」
らしいです。

いーちゃんには、無織のことは人識から説明しています。
あの戯言遣いさんなら、きっと少し驚いただけで終わりそう。





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