04

 “偉大なる航路(グランドライン)”前半の海を進んでいたある日。おれたちはそこそこ小さな島に辿り着いた。どうやらここは磁気が弱い島のようで、“記録指針(ログポース)”の指している島へと向かう途中に偶然発見したのだ。そろそろ物資や食料品が心許なくなってきたので、ちょうど良いタイミングだった。
 船から目視で確認したかぎりでは海辺に小さな港町のある平穏そうな島だったが、さて、実際はどうだろうか。エースと共に冒険をしてきて何事もなく過ごせた試しがないので、どうせ何かしらのトラブルが舞いこんでくるに違いない。

「よし! 一番乗りだ!」
「待ってくれ船長! まずは偵察からって言ったでしょーが!」

 海軍や町民に見つからないように崖際に船を止めるやいなや、勢いよく陸へと飛び降りていったエースと、それを慌てて嗜める仲間たち。これも見慣れた光景になりつつあった。
 「まずは飯だな!」と意気揚々と走り去っていくエースの背を眺めていると、髑髏仮面を顔に付けている男――スカルが諦めたように肩を落としてこちらに近づいてきた。

「ぜんぜん聞いちゃくれねェ……」

 スカルはその名の通り髑髏グッズコレクターで、趣味のために様々な海賊船を乗り継いできた変わり者だ。その経験をエースに買われて、情報屋としてこの船の一員に加わっている。
 おれとは仮面で顔を隠している同志として、それなりに仲良くしている。おれの場合は、親類に騒がれたくないだとか、自分の顔を不意に見るのを避けたいという理由なので、船内に引きこもっている間は仮面を外していることもあるのだが、多少なりとも共通点があると話が合うのか、雑談する機会は多かった。

「デューの旦那もなんとか言ってくれよ。この船で一番付き合い長いんだろ、あんたら」
「いや、悪ぃがあれはおれでも無理だ」

 エースの好奇心の強さを舐めてはいけない。よく言えばやんちゃで、悪く言えば無鉄砲。ふたりだけで航海していたときも、あれにどれだけ手を焼かされたものか。

「分かってて放置してるのはタチ悪くねェか?」

 ひとり頷くおれに呆れた視線を向けられている気がするが、こればっかりはしょうがないから諦めてくれ。手綱を握れるならとっくにそうしている。
 今のおれは、いわゆる万策尽きて天運に任せるってやつだ。せいぜいエースがトラブルを呼び込まないことを祈るばかりである。

「あの、デュースさん……、これ……」
「ん?」

 おれの背後から、おずおずとウォレスが話しかけてきた。ウォレスはいくつか前の島で仲間入りしたばかりの、まだ少年と呼んでもいい年頃の魚人だ。冒険に憧れて魚人島から飛び出たものの迷子になってしまい、漂着した先の島で陰湿な迫害を受けていたところをエースに助けられて恩義を感じ、海賊団に加わったという経歴を持っている。
 振り返ると、彼はどこか居心地の悪そうな、というよりも戦々恐々とした顔をしながら水かきのついた掌をこちらに差し出してきた。そして、その手の上に乗っているものを見て、おれは思わず大声を上げた。

「――っざけんなエース! また忘れやがったな!?」

 晴天におれの怒鳴り声が響く。にわかに騒がしくなった船の上で、海鳥たちが呑気に鳴きながら悠々と空を飛んでいた。
 


 慌ててエースを追って入った町は、予想と違わず平穏そうな雰囲気だった。町中のあちらこちらに綺麗なオレンジ色の花がまとめて植えられており、そよそよと穏やかな風に揺られている。遠くの畑にも同じ花が見えるので、もしかしたら花が特産品なのかもしれない。

 とりあえず目についた飲食店に飛びこむと、幸運にもそこにはエースがご飯の山に顔面を埋めて寝入っている光景が広がっていた。
 これで食い逃げをやらかしていたら面倒なことになっていたので、食い倒れていたのはひとまず幸運と呼びたい。食費については……とりあえず考えないことにする。

「お、おい、兄ちゃん大丈夫か?」
「はいはい、すいません。こいつの悪い癖なんで、気にしないでください」

 店内にいた従業員や客たちが動揺していたので、おれは謝りながら彼らの間を縫ってエースに近寄った。寝息も立てていないので確かに死んだようにしか見えない。
 とりあえず起こすために、エースの肩を叩きながら声を掛けることにした。

「おい、起きろ。窒息するぞ」
「んあ? あー……寝てた」
「頼むからせめて外では寝ないでくれ……」

 あっけらかんとした態度で食事を再開させているエースを前に、おれは呻きながら額に手を当てた。
 エースが食事中に寝入る悪癖は知っていたが、実際に世話をするようになるとマジで厄介だ。一見すると失神しているようにしか見えないし、下手するとカトラリーで怪我をしたりご飯で窒息死しかねない。
 あまりに目が離せないので、よそで食事をするときは一応船医のおれが真横で見張るようになっていた。もしエースが飯に殺されでもしたら、さすがに呆れ果てて情けなくなるかもしれない。

 おれの苦悩にはちっとも気にかけず、エースは美味しそうな匂いのする大量の肉料理に囲まれながら楽しげにこちらに笑いかけてきた。素面のくせに、いつかの宴で見たときのような機嫌の良さだった。

「これうめェぞ。デュースも食えよ」
「へぇ。じゃあ、ちょっと貰うか」
「あっ、それは取るなよ!」
「先に言わないほうが悪い」

 隣の椅子に座りながら、皿の上にあった一番大きな骨付き肉をさっと奪い取り、そのまま齧りついた。エースが抗議の声を上げるが、これくらい迷惑料としていただいたって構わないだろう。いつもの宴のノリが通じると思うなよ。
 エースは不満そうな顔をしながら手元の皿をこちらに寄せてきた。その皿の上には真っ赤に染まった肉料理が盛られていた。見た目からして、とんでもない辛さの気配が伝わってくる。

「おれが勧めたのはこっちだってのに」
「辛いのは無理だって何度も言ってんだろ」
「こんなにうめェのになァ……」

 どんなに寂しそうな顔をされようが、このことに関しておれは自分の意思を曲げるつもりは一切ない。エースの辛さ耐性の異常性は身を持って学んでいるので、胃腸の平穏のために、食に関してはまともに信じないことを決めているのだ。
 ちなみに、船の仲間の大半もおれに同意している。誰だって自分の身体……もといケツを犠牲にしてまで、辛さの向こう側に挑戦したくはないからな。

 自分で選んだ肉は常識の範囲内の味付けをしていて美味しかった。それを食べつつ、おれは本来の目的を果たすべくコートのポケットに手を突っこみ、掴んだものをエースに見せる。

「これ、忘れてただろ」
「あっ」

 おれの手の中にある革製の財布を見て、エースは焦ったように頬を引き攣らせた。
 さすがにおれが怒るのが分かったらしい。これで累計四回目の財布忘れだからな。仏の顔も三度までってやつだ。

「あのなぁ、エース。別に忘れ物をするなとは言わねぇよ。人間、誰だってミスはするもんだからな」
「お、おう」
「でもな、普通は店に入る前にちょっとは手持ちを確認するだろ。……お前まさか、無銭飲食するつもりだったのか」
「ちっ、ちげェよ! うっかりしてただけだ!」

 慌てているエースの言い訳をとりあえず信じることにした。ここで揉めたってどうしようもないし、おれもそこまで怒っているわけではない。これで食い逃げをされたらさすがにキレたかもしれないが、未遂で済んでるなら許せる範囲だ。
 「次から気をつけろよ」と言うと、これで手打ちにしたいのが伝わったのか、エースは素直に「おう」と頷いていた。

 二人でご飯を食べつつあれこれ言葉を交わしていると、エースが無事だったことを確認して安心したのか、近くにいた店主らしき壮年の男がほっとした様子で近寄ってきた。

「ああ、お客さんに何事もなくて良かったよ。近くの森に厄介な毒蛇が出るもんだから、そいつにやられちまったのかと……」
「厄介な毒蛇?」

 詳しい話を聞くと、どうやらこの町の北に広がる森には強力な毒を持つ蛇がうじゃうじゃ生息しているらしい。幸いにして、そいつらが森から出ることはないらしいが、迷い込んだ旅人がうっかり噛まれて命を落とすこともあるため、死者は定期的に出ているとのことだ。
 念のため、その蛇の見た目や特徴を尋ねてみたが、店主は言い伝えしか聞いたことがないらしく、曖昧な答えしか返ってこなかった。
 曰く、普通の蛇よりも大きめだとか、動きが素早くて見つかれば逃げるのは難しいだとか。説明がふわふわしていてちっとも参考にならない。
 とにかく森に近づくなという警句に町全体の人々が従っているため、直接確認した人はおろか、血清すら用意されていないらしい。

 同じく話を聞いていたエースは「危険な蛇っていうなら、もうちょっと対策を練るなり警戒したほうがいいんじゃねェか?」と呆れていた。
 山育ちのエースは蛇どころか虎や熊相手に暴れていたらしいから、危険な生物への警戒心が薄いことが信じられないのかもしれない。おれから見ても、街のやつらが呑気すぎるのはたしかだった。

 その後、おれとエースはさっさと食事を終えて店を出た。まだまだ日は高く、春島の夏らしいさっぱりとした陽気が心地いい。会計を終えて財布を仕舞うおれの傍らで、エースは気持ちよさそうに伸びをしていた。
 とりあえず、気になっていたことをエースに尋ねてみる。

「で、さっきの話だが信じたか?」
「いーや、まったく」
「だろうな」

 おれは頷きながら、出てきた店のほうをちらりと見た。
 エースと同意見だ。あんなに適当な噂話を信じるような奴は海賊じゃあない。むしろ、入るなと言われれば言われるほど障害を乗り越えようと燃え上がるのが海賊という生き物なのだ。

「おそらく、あの森に隠したいものものがあるんだろうな」
「財宝とかか?」
「さぁな。確かめてみないことには分かんねぇだろ」

 で、どうする? とエースのほうを見やると、やはりと言うべきか、エースはワクワクと楽しげな様子で笑みを浮かべていた。

「決まってるだろ! 行くぞ!」



「――って、マジで毒蛇の出る森じゃねェか!?」
「くそっ、なんでおれたちは素直に信じなかったんだ!」

 数十分後。おれたちはふたりで森の中を走り回っていた。背後から、大きくてすばしっこい毒蛇たちがひしめき合ってシャーシャー鳴きながら迫ってきている。
 この毒蛇たちが店主の言った通りの特徴をしているのが憎らしかった。おれはともかくとして、エースですら逃げきれない素早さってのは、さすが“偉大なる航路(グランドライン)”産の生物って感じがするなぁ! これでまだ楽園って冗談だろ!?

「いや、呑気に考えてる場合じゃねぇ! とにかく逃げ切らねぇと死ぬ!」
「デュースはもうちょっと早く走れ!」
「うるせぇ! おれは頭脳担当だ……っ!」

 必死で森の中を走るが、慣れない環境で動き回っているので体力が消耗されていく。山育ちのエースは木々の合間を難なく動き回れているが、おれにはそんな技術も器用さもない。蛇の這う音がじりじり近づいてきているのが分かって、冷えた汗が背筋を伝った。

 エースの能力を頼りたかったが、ここは森だ。うっかり火が燃え広がれば、あっという間におれたちも火に巻かれてしまうだろう。
 そうなれば、エースならともかくとして、ただの人間のおれは無事では済まない。

 エースの炎が使えない以上、おれが何とかするべき状況ではあるが、いまの手持ちの武器は拳銃一丁だけだ。しかも護身用で、たいして威力が強くない。
 ためしに数発を蛇に向かって撃ってみたが、あいつらの勢いを削ぐことはできなかった。

「くそっ」

 飛びかかってきた蛇を銃身で振り払い、エースの背を追う。ミハール先生ほどじゃないにせよ、ある程度の狙撃力は磨くべきだった。色々な部分が足りていない現実を突きつけられ、つい悪態が口から出てしまう。

 エースは自然系の能力者なので噛まれるようなことはないが、うっかり炎が木や草に燃え移らないように気を遣っているためか、いつもよりも疲れが見えた。
――これ、もしかしておれが足手纏いなのでは?
 そんな言葉が脳裏を過ぎりかけたとき、エースが声を上げた。

「建物があるぞ!」

 木々の先に、石造りの小さな家のようなものがぽつんと建っているのが見えた。周りの地面には石やレンガが敷かれており、明らかに森を切り開いて作ったのが分かる。
 建物も石で造られているようだし、これなら引火することもないだろう。

「ここで一掃しちまえ!」
「おう!」

 立ち止まっておれを背にしたエースは、腕を炎に変えて勢いよく振り払った。
 ごう、と音を立てて飛んだ巨大な炎は、毒蛇の群れを襲って一気に焦がしていく。そして、炎はそのまま消えることなく石造りの地面と森の間に留まり、壁のように立ち塞がった。
 運良く焼かれなかった毒蛇たちは身の危険を悟ったのか、慌てて森へと逃げ帰っていくのが見えた。

「なんとかなったか……」
「いやぁ、ハラハラしたな!」

 脱力して額の汗を拭うおれとは対照的に、エースは楽しげに笑う。命の危険があった出来事をスリル満点アトラクションのようにに受け取るとは、さすがの肝の太さだな。

 息を整えてから目の前の建物に目を向ける。石で造られた一階建ての小さなこれは、どちらかといえば平屋というよりも診療所や研究所のような趣があった。ドアや窓は壊れていて、外壁もちらほらヒビ割れて蜘蛛の巣が張っている。廃墟に違いない。
 おれの隣に立ったエースは、同じように建物を見つめて呟いた。

「人はいなさそうだな」
「探索するのも悪くはないが……」
「何かあんのか?」

 正直に言えばあまり気乗りしない。なにしろ、こういう打ち捨てられた病院や研究所では、取扱注意の薬品や機器が転がっているかもしれないからだ。前世でも、廃病院からピカピカ青く光る粉入りの容器を持ち帰って、身内に自慢して見せたら放射能物質で人死が出た話を聞いたことがあるしな。
 そこまでの代物は眠ってないにせよ、管理されなくなった施設の危険性なんて部外者は知りようがない。もし、ここが物騒な化学薬品や細菌などを扱っている研究所だったら、不用意に踏み入めばお陀仏になるかもしれないんだ。

 なんてことをエースに要約して説明すると、だいぶ嫌そうな顔をされた。そりゃあ、これから探索するかもしれないタイミングで、こんな夢もかけらもない話を聞かされたら気分も悪くなるよな。

 せめて、ここが何の施設か分かるような手がかりでもないかと建物の入り口あたりに近寄ると、表札らしき板が落ちているのが見えた。

「これは……この建物の名前か?」

 字はほとんど掠れて消えかかっていたが、動物病院と書いてあるのはかろうじて読めた。

「こんなところに動物病院なんて意味ねぇだろ……」
「デュース、こんなのが落ちてたぞ」
「あっ、おい。勝手に入るなって言っただろ」
「言われてねェな!」

 いつの間にか建物に入り込んでいたエースが、紙の束と日誌のようなものを手に持って入り口から顔を出していた。
 おいおい嘘だろ。警戒心ってものが足りていないのか? それともおれが傍にいるから気が緩んでいるのか?

 エースを窘めつつ差し出された資料を受け取ってざっと目を通す。それによると、どうやらここは主に爬虫類を対象に研究を行っていた施設らしい。爬虫類……つまり蛇も対象に入っているよな。
 案の定、日誌のほうには蛇との生活や観察記録などが書かれていた。これだけ読めば微笑ましい生物ブログっぽいが、合間にところどころ不穏な文面がある。
 完全無欠な最強の蛇を作るだとか、自分の生み出した蛇たちが世界を支配するだとか……。これ、もしかしてめちゃくちゃ思想がマッドなサイエンティストの記録なんじゃないか。

 ぱらぱらと捲っていた日誌の後半で、“動物(ゾオン)系”の能力者に協力を持ちかけられた出来事を見つけた。おそらく相手はヘビヘビの実の能力者だったんだろうな。計画の成功が近づいたと思ったのか、文面から研究していた奴の興奮と喜びが伝わってくる。
 しかし、その計画は財宝を狙った相手に裏切られて、けっきょく手酷い失敗に終わったらしい。最後のページは血のような液体で恨み満載の言葉が書かれていた。

「そして蛇たちは研究所から抜け出して野生化した――ということか」

 研究所の中は外観と同じく風化しており、埃が積もっていた。研究室のような部屋で、大きな籠のそばに白骨化した死体が横たわっているのを見つけた。白衣を身にまとったそいつの周りには赤茶けた血痕が染みついており、ずいぶん昔に亡くなったことが分かる。
 籠の蓋が開いていることを見るに、蛇たちは抜け出したというよりも、飢え死にさせないように研究所から逃がした可能性が高い。

 死に際に子どものような存在の命を守ったと言えば聞こえはいいが、実態はバイオハザードみたいなもんだろこれ。わざわざ生み出したなら、責任を持って最期まで世話をしてくれないと困る。
 実際に、森に放たれたあの毒蛇たちはのびのびと繁殖してあんな状況になっているしな。あいつらが森にしか生息していないから良かったものの、人里に出没するようになれば悪夢でしかない。いつか将来的にヤバいことになりそうなものだが……。

「いや。そもそも、なんであいつらは森から出てこないんだ?」
「森のほうが居心地良いからじゃねェの」
「それにしても、町での出没情報が全くないっていうのはおかしい。森から近いんだから、うっかり迷い込んでくることだってあるだろ」

 疑問を言葉にして、もう一度あたまからじっくりと書類に目を通す。
 最強の蛇を目指した研究。強さは申し分なかった。では、どうして成しえなかったのか――。

 結論から言うと、あの毒蛇たちには弱点があった。
 それは、この島に根差して繁殖している花の匂いだった。
 蛇は主に嗅覚で外界を確認する生物なのだが、この島固有の植物の匂いは、あの毒蛇たちにとって忌避感を抱かせるものらしい。
 どうやら、ここで研究していた奴はその弱点をなんとか克服したかったようだ。花自体を枯らした方が早い気もするが、弱点があることが許せなかったんだろうな。
 思い返せば、あの港町には同じ種類の花が植えられていた。恐らくあれが蛇除けになっていたんだろう。

「そして、ここで研究していたということは……、やっぱりな」

 建物の裏手に回ると、荒れ果てた花壇に大量の花が咲き乱れていた。町で見かけたものと同じ、鮮やかなオレンジ色の花だ。
 この島は春島で年中気候が安定しているため、枯れて絶える時期が存在しないのだろう。そうでなければ今頃あの町はとっくの昔に毒蛇の被害に遭って壊滅していたに違いない。



 その後、花壇からありったけの花を摘んだおれたちは日が暮れる前に森から脱出し、港町へと戻った。
 スペード海賊団の奴らはおれたちの行方を探していたらしく、再会するなりわらわらと取り囲んできて涙混じりに怒ってきた。

「もう〜! どこに行ってたんすか! すっげェ探したんすけど!」
「へへ、悪ィな。ちょっくら冒険してた」
「おれたち抜きで楽しんでたなんてずりィよ!」

 羨ましげに文句を言われたが、あの毒蛇からの逃走劇のどこに楽しみがあったのやら。わりと命の危険しかなくて冷や汗モノだったんだが。もし、弱点となるあの花を見つけられなかったら、帰りも全力で逃走しなきゃいけなかっただろうしな。

「そんでデューの旦那はよォ、船長の勝手を止めてくれなきゃ困るぜい」
「いや、それはマジで悪かった」

 スカルに窘められたので素直に謝った。さすがにエースと一緒にはしゃいでしまった自覚はある。冒険心が疼いてしまったというか、エースとふたりきりで探索するのは久々だったので我慢しきれなかった。
 いつもは戦闘時に後衛に周って頭脳役という名のサポートに徹しているので、思いっきり身体を動かしたかったのもある。
 いずれにしても危機感が足りていないのは確かだった。

 ただ、今回の出来事のおかげで自分の課題点を新たに発見することができた。怒られている手前、堂々とは開き直れないが、そう悪いことばかりではなかったはずだ。

 それに、心配を掛けた分のリターンもあったしな。
 おれの隣で、エースはにやにやと笑いながら肩に担いだ袋を仲間に見せつけていた。

「これ、なーんだ?」
「ま、まさか……!」
「お宝ァー!?」
「せいかーい!」

 袋が揺れて、ジャラジャラと金属や宝石のぶつかる音が鳴る。おれも笑いながら手元の袋を掲げた。突然の財宝を前に、仲間から驚きの声が上がる。

 実は、あの研究所の奥には隠し財宝が眠っていたのだ。とはいえ、それを見つけ出すのにそこまで苦労はしなかった。
 なぜなら、財宝までの隠し場所が堂々と曝け出されていたからだ。
 本来ならば、本棚の後ろの扉に気付いて、暗号を解除して金庫を開ける必要があったんだろうが、扉は開け放たれていたし、財宝も金庫の鍵と共に手付かずのまま残されていた。金庫の傍に、海賊らしい装飾品を身に纏った白骨死体が鍵を握りしめて横たわっていたが、きっとそいつが研究者の殺害を行ったヘビヘビの実の能力者だったんだろう。
 死体の様子を見るに、研究者の貯め込んだ財宝のあり方をなんとか探り出し、裏切って回収しようと油断したところを、死に際の研究者の逃がした毒蛇たちに襲われて死亡した――なんていう一部始終が目に浮かぶ。
 ヘビヘビの能力者でも殺せる蛇の毒と思えば、世界一という夢もあながち不可能ではなかったのかもな。

「おめーら! 今日はこれでパーッと宴にしようぜ!」

 エースが宴を始める合図を叫び、仲間たちが嬉しそうに「オオーッ!」と雄たけびを上げた。

 なんやかんや寄り道をしたが、終わり良ければ総て良し。機嫌よく肩を組んできた仲間に揺さぶられながら、おれも財宝を握ったまま勢いよく拳を上げた。
 これが海賊の冒険の醍醐味だよな! 海賊最高!

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