01

――ふと気がついたとき、俺は“おれ”になっていた。

 世は大海賊時代真っ盛り。
 新聞を開けば、どこそこの海賊団が暴れているだとか海軍がそれを制圧したという記事が並び、街中を歩けば親戚の娘が海賊に攫われてしまったと嘆く声や賞金首がこちらに逃亡しているという噂話が聞こえてくる。
 かつての俺が暮らしていた国とは比べものにならないくらい治安の悪い環境だ。それでも、今のおれが住んでいる島は、平和でまともな場所だと自信を持って言える。
 海賊王が処刑されてから早十数年。それほどまでに今の世は荒れきっていた。

 洗面所に立っているおれは、じっと目の前の鏡に映るおれ自身を見つめた。
 水色の髪。黒い瞳。目つきはやや悪く、日に焼けていない身体と相まって、どこか神経質そうな雰囲気がする。そんな十代半ばの青少年。
 以前の俺の容姿はほとんど思い出せないが、少なくとも、まったく異なっているということだけはハッキリ分かっていた。何しろ、鏡に映る自分の姿を見るたびに、「誰だこいつは」とギョッとしてしまうのだ。見慣れていないということは、それだけ差異があるということだろう。

――おれって、いったい“誰”なんだろうな。

 そんな哲学的な問いには、現実的な疑問も含まれていた。
 ここが、かの有名な少年漫画の世界だということは分かっていた。何しろ、ゴールド・ロジャーの悪行や、この広い海のどこかにある“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”の噂を信じて海賊になった連中の話が当然のように聞こえてくるのだ。
 それに、この島をとりまく海の名前が太平洋だとか大西洋ではなく“東の海イーストブルー”だと知れば、そりゃあもうあの漫画の世界に決まっている。
 実際問題、漫画の世界に転生するなんてありえないし今でも信じられないが、どうあがいてもこれが現実だった。なってしまったものはしょうがない。

 しかし、残念なことに俺はこの作品に詳しくなかった。
 たまにアニメを観たり原作を無料公開期間中にさらっと流し読みしていただけだし、本誌は定期購読していたものの目当ての漫画は違っていた。金がもったいないので一応目を通していただけで、伏線とかマイナーなキャラクターの名前なんてまったく把握してない。ぶっちゃけて言えば、にわかファンってやつだ。
 記憶に新しいエッグヘッド編にも、俺の知らないキャラたちが出てたしな。メインの登場人物たちと本筋が分かっていれば楽しめたから特に気にすることはなかったが。

 にわかなりに好きなキャラを強いて挙げるならば、ゾロとかカタクリだろうか。ああいう筋の通った強い男って憧れるよな。印象的だったエピソードなら空島編と頂上戦争だ。
 特に、頂上戦争でのエースの死に様は衝撃的で、話の流れ自体はなんとなく知っていたくせに、実際に無料公開で読んだときにかなりショックを受けた。そういう意味ではエースのこともわりと好きだったのかもしれない。主人公の義兄で炎使いで海賊王の息子って設定はさすがに属性てんこ盛りすぎてずるいだろ。
 そういえば、一気読みしたあとで熱心な原作ファンの友人に感想を伝えたら、エースが主人公の外伝小説を無理やり押し付けられたな。そこそこ楽しんで読んだはずだが、それも今となっては大筋しか思い出せない。

 とまぁこんな調子なので、記憶を一生懸命探ったところで自分が誰なのかさっぱり分からなかったし、住んでいる島の名前を調べてみてもピンとくるものはなかった。
 そこそこマイナーなキャラなのか、ただのモブなのかすらも分からない。モブの可能性は高いんだが、にわか判断なので信頼性に欠ける。俺がコアなファンだったら自信を持って判断できたんだろうけどな。

 何もかも、分からないことだらけで辟易する。インターネットというか、Wikipediaが欲しい。気になる知識をさくさくっと検索しながら生活していたい。
 ため息交じりの思いと共に、鏡の前のおれの表情はげんなりと疲れ切ったものへと変わった。

 この世界のおれの生まれ育った家は、いわゆる医療家系だった。
 父親は医者で病院の経営者、そして兄も立派な医者。母親は良家の子女。裕福な家庭で、金に糸目を付けず存分に子どもの教育に力を注いでくれる。そういう家だった。
 それは、この物騒な時代においてかなり恵まれていることだと思うし、前世の俺だったら嫉妬とまでは言わずとも羨ましいと思っていたかもしれない。

 でも、実際にこの家で生活してみると分かる。
 ここは、幸福とは程遠い環境だった。

 教育に力を注ぐのは、子どもの将来の可能性を広げるためじゃなくて、医者あるいはそれに準ずる職業に就かせたいからだ。
 自由なんてものはなく、親の意思に従って決められたレールの上を走るのが、この家の子どもの役割だった。
 いわば、兄やおれは親にとってお人形みたいなものだ。反抗も反対も許されないし、持ち主の期待に応えられなければ一気にただのゴミ。家にとって要らない不用品に成り下がる。捨てられはしないが、居ないものとして扱われてしまう。

 そうして、“俺”がおれになったと気づいた幼い頃から薄々悟りつつ、ここ数年ではっきりと理解したひとつの事実。

――おれは、父親や兄ほど優秀な人間じゃない。

 “俺”という比較対象を知っているだけに、医学生になれているだけでも立派だとは思うが、どうやら周囲にとってそれでは満足できないらしい。
 学校の中でもとびきり優秀で、教員や学友から一目置かれる存在。
 そういう人間であることを求められた。おれの兄はまさしくそうだった。うんざりするほど重たいあいつらの期待に悠々と応えられていた。

 でも、おれはその期待に応えられなかった。“俺”とおれは見た目が変われど、その中身に大きな違いはない。優秀な家の血を継いでいるといっても、転生あるいは成り代わっただけだから変わるわけもない。
 おれはちょっとばかりこの世界の知識があるだけの、ありきたりな一般家庭出身の人間でしかない。頭の回転は今の身体になってから早くなったが、価値観というか人生観のようなものは変わっていなかった。
『それなりに努力して、それなりの稼ぎがあって、自分の趣味を楽しみつつ平穏に暮らす』
 それが“俺”の人生で、そういう生き方を良しとしてきた。あの親たちの血を継いで生まれたからって、優秀で魅力にあふれた人間になれるわけがなかった。そもそもハナから目指したいとも思わないし。

 そうやって開き直っていても、この生活には息が詰まった。
 成長するにつれ、自分が必要とされていないことをまざまざと突き付けられるようになる日々。親や同級生から疎ましがられ見下しされているのを感じる目線。そりゃあ、医学に対してやる気も適性もない奴なんて邪魔でしかないから当然だよな。
 何をしたところでお前は居ても居なくても変わらないということを、言外に伝えてくるような扱いをずっと受けてきた。

 もしも、“俺”の記憶を思い出していない子どもだったら、早々に挫けていじけてしまっていたかもしれない。だが、幸運にもおれは“俺”の記憶があり、ここ以外の世界の知識を持つことができた。つまり、複数の視野というか、多様な価値観みたいなものを抱えて育つことができたわけだ。
 そのおかげで、医学の世界で生きていけないからって無能なわけじゃねえって自信を持って思えたし、それなりに胃を痛めながらも内心で文句を吐きつつ実家と学校を往復する日々を続けることができている。……いや、これって良いことなのか?

 おれがこの家で生まれ育って早十数年。居心地の悪い生活に改善の兆しは見えない。むしろ悪化していると言ってもいい。
 だんだんと原作の開始時期が近づいているにも関わらず、おれの立場は分からないままだ。トラファルガー・ローとかチョッパーみたいな医療系キャラになると分かっているなら多少は頑張れたかもしれないが、そうじゃないなら医学を極めることにまったく意義を見出せない。かといって、わざわざ家に逆らってまでやりたいことも特に見つからなかった。

 敷かれたレールを惰性で走るのは確かに楽だが、そこには納得と適性が必要だ。そして、おれは両方とも欠けていた。だから、それなりに走ることすらロクにできなかった。
 さっきは前世の記憶のおかげで挫けずにすんでいると言ったが、それは誤りだ。結局のところ、前世の記憶があったとしても、おれはじわじわと気持ちが挫けて腐りつつあった。

 その証拠として、学期末となる本日、教員によって渡された成績表は見事に真っ赤に染まっていた。おまけに大量の追試課題が付いている。

「あー……」

 成績をきっかけにして途端に現実のことを思い出し、鏡の前のおれが落ち込んだ顔で項垂れる。

 あーあ。この世界にパソコンやスマートフォンがあればなぁ。

 おれ自身のことを調べたい気持ちもあるが、現時点でいえば、勉強へのモチベーションが底辺を這いずり回っているので、参考にするための書籍をいちいち開いて学ぶのが面倒な気持ちのほうが強かった。
 インターネットってマジで文明の利器だ。あのベガパンクが開発したがるのも頷ける。

 とはいえ、追試の課題はこなさないといけない。さすがに赤点まみれの成績で呑気に過ごしていたら退学処分を食らってしまうからだ。そうなればいよいよ実家の居場所はなくなるし、下手すれば追い出されて住所不定の無一文。あるいは、一族の恥さらしの存在をなかったことにするために地下に幽閉孤独死エンド。表向きは事故死とか偽ってな。
 わざわざ殺しはしなくとも、それくらいのことはあの父親ならやりかねない。いくらやる気がないとはいえ、さすがにそれは避けたかった。

 実のところ、この家から逃げ出して旅に出る手もあるといえばある。だが、この荒れ切った大海賊時代でそれをやるのは自殺行為に等しい悪手だ。たまたま世界政府に属している島に住んでいるから平穏に過ごせているだけであって、後ろ盾も財産も戦闘能力もない未成年が外の環境に出てしまえば、死ぬまで五体満足で生き延びられる確率はあっという間に低くなる。
 前世の平和な国で育った身としては、どんなに嫌だろうと、ここで生活し続けるための努力をしたほうがマシってやつだ。

 課題をこなすにあたって、父親や兄と鉢合わせる可能性のある自宅の書斎や、同級生で溢れている学校の図書館で調べものをする気にはなれなかった。なので、おれは島で一番大きな書店に向かうことにした。
 ここは専門書から大衆雑誌まで幅広く扱っているため、島民にもそこそこ人気がある書店だ。そこそこっていうのは、あまりに品揃えが良すぎて玉石混合というか、目当てのものを探すのが面倒極まりなくて活字が好きなやつしか近寄らなくなっているからだ。採算度外視の経営をしている店長は、よほどの活字中毒者か収集マニアなんだろう。

 せっかくだし、専門書を買うついでに娯楽小説に目を通して気分転換でもするか。そう思うとちょっとだけ気持ちが軽くなった。この世界には印刷出版文化があるので、面白い書籍なら普通に手に入れられるのだ。少年漫画などのエンタメ好きだった人間にはありがたかった。
 天井まで伸びた本棚の間を通り、小説のコーナーに足を運ぶ。色とりどりの本が並ぶなかで、ふと、本棚の片隅で山積みになった書籍が目に入った。

 題名は――『ブラッグメン』。確か、大昔の冒険家が記した日誌をまとめた本で、かの有名な巨人島“リトルガーデン”のエピソードなどの一見すると荒唐無稽な話がたくさん載っていたはずだ。昔のおれも含めて幼い子どもたちはみんなこれを読んで育ってきているし、大人も居酒屋などでたまに話題に挙げるような有名書だった。
 ”俺“という記憶を思い出した今になってみれば、これに記された冒険は確かに存在したものだったのだろう。四つの海に住んでいる奴らからすれば信じられないような現象が起きるのが“偉大(グラ)なる(ンド)航路(ライン)”だし、法螺話だと笑うのも仕方ないとは思うが。

 何故だかその本が妙に気になって、ふらふらと棚に近寄った。――そして気づいたら、購入済みの書籍の紙袋を抱えて広場のベンチに座っていた。
 紙袋から出すと、やはり先ほどの本が現れた。膝の上にそれを置く。表紙を撫でて、たしかにここにあることを確認する。装丁は地味な日記のようなデザインでありながらも造りは立派なものだった。有名な書籍だから、出版元も手をかけて刷っているのかもしれない。

 買ってしまったものはしょうがないし、せっかくだから久々に読み返してみるか。

 そう独りごちて、懐かしさと共にページを開き、一文目に目を通す。はじめは確認のために軽い気持ちで読み始めていたはずが、だんだんと真剣に文字を追い始め、いつの間にか夢中になって日誌の書かれた世界に食いついてきた。
 そしてハッと顔を上げると、あたりはすっかり暗くなり、陽が落ちかけていた。
 どうりで文字が読みづらいと思ったわけだ。街灯だけを頼りになんとか読み進めていたが、それも限界が迫っていた。あと数分もしないうちにいよいよ辺りは闇に包まれるだろう。

 どうしてか帰宅する気にはなれず、おれはそのまま近くの宿屋に飛び込んだ。
 一泊分の宿泊代を雑にカウンターに投げて支払い、用意された部屋に駆け込む。ランプの明かりを付けてベッドに腰掛け、続きを読むために本を開いた。
 そして夜が更けてきたころ、ひやすら文字を追っていたおれは、ようやく最後のページに辿りついた。

――ああ、そうか。そういうことか。

 おわりの文字に目を通し、本を閉じる。自然とため息が口から漏れ出た。脱力感に襲われながら、表紙に空押しされた題名をそっと指でなぞる。
 巨人の住む島、雷が降る海、想像もつかない見た目の生物たち、数々の未知の財宝。常識を超えた海の世界をまざまざと綴っているそれは、まさしく男のロマンが詰まった旅路の記録だった。
 一度読んだことはあるとはいえ、原作の知識があるからこそ、いっそう楽しんで読むことができた。そして、最後まで読み終えてから、この本が妙に気にかかった理由を悟ってしまった。

「あー、なんだよ。……今さらすぎるだろ」

 背中を後ろに倒し、ベッドの上で仰向けになる。仄暗いランプの灯りに照らされた天井の木目がやけに歪んで見えた。

 水色の髪。
 裕福な医者の家。
 『ブラッグメン』という題名の冒険記。

「おれは、そうなのか」

 どうりで名前に聞き覚えがないわけだ。
 だって、おれの本当の名前は、これから出会う予定の男から貰うはずなのだから。
 今の名前は陸地に捨てられて、読者にすら把握されなくなるから。
 かつての友人から借りた本の表紙が脳裏をよぎる。にわか読者だったくせに、皮肉なことにそれだけはハッキリと思い出せてしまった。

「そんなの、分かるわけねぇだろ……」

 呻き声を漏らしつつ、腕を目元に下ろす。今の今までまったく思い当たらなかった自分の間抜けさを思うと、ひどい脱力感が襲ってきた。

――まさか、おれがスペード海賊団の“マスクド・デュース”に成り代わっただなんてな!



 衝撃的な事実が発覚してから数日後。
 おれはあの腐り具合から一変し、意欲的に医学を学ぶようになった。もちろん、頑張ったところで家庭内でのおれの境遇が改善したわけではないし、相変わらず医学には向いていないことを痛感するが、自分なりに真剣に取り組むようになった。
 理由は簡単だ。おれは将来、海賊船の船医になる必要があると分かったからだ。

 “マスクド・デュース”とは、エースが主役の外伝小説に登場するキャラクターの名前だ。
 そいつはエース率いるスペード海賊団の船医で、初めてエースの仲間になった相棒ポジションの男だった。彼は原作には出てきていなかったが、小説では語り部としてわりと大事な立ち位置に存在していた。
 なにしろ、“マスクド・デュース”とエースが出会わなければ、エースはメラメラの実の能力を得られても脱出のための船を手に入れられず、海賊としての冒険が始まる前に野垂れ死にしてしまうのだ。
 つまり、おれが欠けたらエースが死ぬと思えば責任は重大だ。勉強を怠けて腐っている場合じゃなかった。

 正直なところ、単なる一般市民だったおれが海賊になってやっていけるのかは分からない。冒険の途中で命を落とす可能性だって十分にありうる。いまだってロクな環境じゃないが、この島を出て海賊になれば、想像もできないような苦難や苦痛がたくさん降りかかってくるんだろう。
 それでも、この家で漫然と腐ってクソみたいな扱いを受け続けるくらいなら、本来の筋書き通りに海賊になったほうが気持ち的にまだマシだった。
 それに、義務感や好みのためにここまで励むのを決めたわけじゃない。おれなりに考えついた打算もあるのだ。

 日々を鬱々と過ごしていたおれだったが、一応、こんな自体に遭っている理由も気にしてはいた。
 普通に考えたら、物語の知識を持っている奴がたまたま作品のキャラクターに成り代わってハイ終わり、だなんて、そんな無意味なことがあるワケがない。きっと何かしらの目的――与えられた使命があるに決まっている。
 そもそも、にわか知識しか持っていないおれがなんで選ばれたんだとは思うが、それについては永遠に答えが出なさそうなので早々に思考を放り投げた。

 とにかく、成り代わったキャラとそのポジションを考えてみると、きっとおれはエースの命を救うことを求められているんだろう。
 ゲームで例えるならば、クリア条件、あるいはメインクエストというやつだ。ゲームのウィンドウ画面があれば、さぞ目立つところに提示されていたことだろう。
 そして、そのクリア報酬は、元の姿に戻って前に住んでいた世界への帰還――ってところか。

 もちろん、実際のところは誰かに強いられているワケじゃないし、やり遂げられたところで元の世界に戻れる確証もない。嘘みたいな状況に巻き込まれてはいるが、どうしたってここは現実だった。どこまでいっても神もいなけりゃナビゲーター妖精も現れやしない。そういうモノだ。
 だから、クリア報酬なんて現実に疲れ果てて希望に縋ろうとしている奴の妄言だ、と指摘されたら否定はできない。

 でも、可能性がゼロとも言えないだろ。

 こんな状況に巻き込まれたこと自体がありえないことなんだから、報酬が得られないなんていったい誰が言い切れるんだ。
 どうせ答えの出ない状況なんだ。僅かでも可能性があると思えるなら、やってみる価値はあるはずだ。

 というか、こんな不思議現象が意味も目的もなく起こってたまるか。未知の上位存在の好奇心に巻き込まれたと言われたほうがまだ納得できるわ。
 こんなに意味不明な事態に遭っているんだから、少しくらい希望になるような対価を望んだって良いだろ。

 それに、おれ個人の気持ちとしても、エースの命を救うのは嫌じゃなかった。
 あのマリンフォードの戦争のシーンは未だに思い出せる。二十歳なんて若すぎるし、まだまだこれからだっていうのに、あんなところで理不尽に殺されるなんて可哀想すぎるだろ。
 あんな未来を知っていてわざわざ見殺しにするのはさすがに気分が悪い。必要のないことだったとしても、できることなら救ってやりたかった。

 義務感と打算、そして同情。
 いろいろな想いが混ざり合い、おれは努力を積み重ね始めた。

――そうして時は流れ、数年後。海賊王が処刑されてから十七年が経ったある日。

 天国に一番近い死の島。あの物語の始まりの地。
 嵐に巻き込まれて命からがら漂着したおれは、そこでようやく運命に出会った。

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