始まり (1/2)

ある日の朝、澄織はいつもの如くベッドから起きてリビングに入り、何故か朝っぱらからカレーという名の殺人兵器を作っている双識にこう言った。

「レン兄、わたし中学校に入学する」
「うん。……って、えぇ!!いきなりどうしたんだい澄織ちゃん!?なにか家で嫌なことがあったのかい!?それなら私が今すぐそいつを倒してくるから安心してね!!あぁいやでも確かに澄織ちゃんの制服姿は一度見てみたいなぁとは思っていたけどまさかこんな形で実現するとは!!やっぱり倒すのはやめよう!そうだよ倒すくらいならいっそ澄織ちゃんと愛の逃避行をするべきだよね!!ごめんね澄織ちゃん、まさか君がそんなに私と居たかったなんて全く思い付かなかったよ!いや、でも澄織ちゃんのことは毎日考えているんだよ?ただいつも履いてるそのズボンとニーハイとの絶対領域に目が奪われて…」
「朝っぱらから煩いっちゃよ」

澄織からのたった一行の言葉に対して、どこまで続くのかと聞いてる人を疲労させるような、双識の長ったらしいその台詞を、軋識が『愚神礼賛』と共に黙らせた。
倒れていてもなお、幸せそうに何か呟いている一賊の長男の姿を尻目に、軋識は改めて澄織に聞く。 双識の状態は無視である。

「レンの台詞には余計なものが多いっちゃが…、レンの言う通り、いきなりどうしたっちゃ?」
「…うん。人兄も通っていたし、なんか興味があるから、かな…。あと、一度くらいここを離れて冒険してみたいなぁ…って思って」

そう言う澄織の顔は下を向いていた。
澄織が思い出すのは、自分の兄である人識のこと。
零崎でありながらも、一般人に混じって普通に中学校に通っていた彼は、最後の最後に破綻した。
裏世界の者によってクラスメイトが全員殺され、否、その学校の者が全員殺され、結局卒業は出来ず、高校進学も断念してしまった人識。
あのときの彼は大いに荒れていた。

「……」

それは絶対に自分の前例として家族に捉えられているはず。
でも、だからこそ、自分の兄が約三年間通っていた中学校というものに興味があった。
澄織が理由を言い終えても、軋識が何も言わないため、部屋には沈黙が下りる。
その様子からやはり駄目だったと澄織が口を開こうとしたとき、

ぽん。

と、頭に軽い衝撃を受けた。

澄織がそろりと顔を上げると、軋識の手が乗せられてるのが確認できた。

「しょーがないっちゃねぇ…。 可愛い妹である澄織の頼みだからな、許可するっちゃよ。
それにどうせ反対しても、澄織なら勝手にやるちゃし…。
なら、ちゃんと手伝った方がいいっちゃから」

そう言う軋識は苦笑していたが、確かに妹を慈しむ目をしていた。
なんやかんや言いながらも、家族の中で一番澄織に甘かったりする自分の兄。どうせまた、軽く手伝うと言っておきながらマンションの最上階でも買うのだろう。いや、絶対にそうする。
澄織はそんな軋識に対して、精一杯の笑顔で答えた。



「ありがとうアス兄!」



前頁:次頁

- 1 -
ページ:
top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -