十人十色 (1/3)

ピピピッピピピッ…


「――うるさい…」

若干寝ぼけた声で、澄織は目覚まし時計を止めた。しかしこれは、完全にスイッチを切らないと数分おきに鳴る代物なので、まだ惰眠を貪るつもりなのだろう。

学校に通うようになってからはや二ヶ月。 季節はもう、梅雨に入りかけていた。
澄織にとってはようやく一人暮らしに慣れてきた頃でもあり、最近では風紀委員という役職にも就いて、毎日を充実させていた。
――充実とは言っても、実際のところは雲雀と闘ったり、書類仕事をするだけなので、一般の生徒なら逆に憂鬱になると思われる。または、雲雀との戦闘はほぼ殺し合いのようなものなので、一日目で再起不能にされるかのどちらかだろう。
しかしながらどちらにせよ、一般人にとっては充実とは掛け離れているものだ。
幼い頃から裏世界に生きてきた澄織に、普通という概念を求めること自体が甚だ厳しい話だったが。
ちなみに本人曰く、
「暇つぶしができて楽しいよ?」
とのこと。
……。
何はともあれ。
人の幸福は、それぞれである。




「眠いー…」

欠伸まじりに澄織は、通学路を歩く。
実は始業時間まであと数分しかない。
にもかかわらず走らないのはとある理由があった。
それは体調不良だとか学校側に許されているから、といった類のものではない。

――風紀委員だから。

普通ならそれがどうした、と思われるが、並盛の風紀委員は他とは違う。
たとえ遅刻しても、風紀委員の力でどうにかできてしまうのだ。それは偽造であり擬装であるが。
しかも、良いのか悪いのか澄織は書類関係の仕事を担当している。…つまり、出席日数などが弄りたい放題なのだ。
それでいいのか風紀委員。
それでも苦情が出されないのは、雲雀による恐怖制裁の賜物ではあったが。
いつの時代も力というのは強かった。ということだ。


「―――っ!!――!」
「…?」

あと少しで学校、というところで後ろから何かが聴こえたような気がした。
幻聴か、と思い後ろを振り返る。
そして静止した。

「――は?」

露出狂が疾走していた。
いや、それだと語弊がある。
クラスメイトがパンツ一丁で疾走していた。

「変態だ……」

澄織の脳裏に浮かんだのは自分の兄。
別に双識に露出癖があるかは分からないが。奇しくも舞織と同じことを思ったのでよっぽど信用されていないのは間違いない。

そうこうしてるうちに、クラスメイトはどんどん近づいてきた。
ギャグ漫画みたく砂埃が大量に舞っている。その粉塵が近所迷惑になることを分かっているのだろうか。

「うぉおおおおおおおお……っ!!」
「……」

怒鳴り声を上げながら近づいてくる彼。
これは空気を読んで退くべきか。

「どけぇええええええええええー……っ!!」
「……うわぁ」

更にあろうことか命令された。
文字通り澄織は後ろに引いた。





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