自由奔放な (1/3)

あれから数日。

澄織は見事に風紀委員にされてしまった。
殺して無かったことにすることも出来たのだが、あいにく雲雀は色々な意味で有名だった。よって澄織に逃げ場は無かったと言える。
そしてそこまではよかったが、何故か風紀委員は学ランやセーラー服の着用を義務づけられるのだ。何故かは雲雀のみぞ知る、というところか。 並盛を愛す彼の事だから、恐らく前の制服がそれだったに違いないけれども。
しかしながら正直言わせてもらうと、かなりこの制服は迷惑だった。 ヒバリの配下にいる、と看板を提げているに等しいし、人が寄り付かなくなるのは明らかだからだ。
なのでその制服の件は、雲雀との話し合い(という名の闘い)により、なんとか妥協してもらった。 引き換えは、週に一度は応接室に行くこと――だったが。
しかし、常に周りに引かれ続けるのと、週一にばれそうになるのとでは大きな違いだ。 普通なら天秤に乗せるまでもなく、後者を取るだろう。


という訳で、澄織は今、応接室にいた。
目の前には、煎れたての紅茶とクッキーが置いてある。 澄織はそれに躊躇なく手を伸ばし、さくさくと軽快な音を立ててクッキーを食べた。
うん。おいしい。
人識の影響を受けたお陰で、澄織は甘党になっていた。たとえ、向かいに雲雀が座っていようが、お菓子を前にしたらそんなものは全く関係ないのだ。

さくさく、さくさく、さくさく。

「…ねぇ、おいしいの?」

さくさく、さくさく、さくさく。

「はい。とても」

さくさく、さくさく、さくさく。

「その割には無表情で食べるね」

さくさく、さくさく、さくさく。

「わたしがこの子たち、一人ひとりに全身全霊を込めて立ち向かっているからです」

さくさく、さくさく、さくさく。

「ふうん、…そう」

さくさく、さくさく、さくさく。

「はい」

さくさく、さくさく、さくさく。

さくさく、さくさく、さくさく、さくさく、さくさく。

さくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさ―――、

「ねぇ」

さくさくという音のみが響く空間にとうとう耐え切れなくなったのか、雲雀はまた澄織に話し掛けた。

「―――ごちそうさまでしたー。
で、何ですか?」

丁度食べ終わったのか、澄織は軽く手を合わせて、紅茶を飲みながらそれに応える。
雲雀を前にして緊張をしていない生徒は、澄織が初めてだった。
お陰で、対応に少し困る。
雲雀はそう思い、呆れたように溜め息をついて澄織にパサリと書類の束を渡した。

「これは、今月の学校の経費だよ。 纏めるのをよろしくね、綾波」
「……え、わたしが、ですか?」

キョトンとした顔で聞かれた。
鎖骨まで伸びている淡い黒髪が、さらりと動く。
雲雀はそんな澄織にまた溜め息をついて理由を言った。

「君、風紀委員でしょ。仕事をするのは当たり前だよ。 あと、頭も良いみたいだしね。
面倒なことに、この委員にいる奴らで書類仕事をできる人は僕くらいしかいないから、かなり時間がかかるんだよ」
「で、わたしにやれと」
「そうだよ」

どうやら雲雀の言うことは事実らしく、目には微かな疲労が見えた。





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