並盛 (2/2)

「――…で、あるからにして…、本校の――」

退屈。

澄織は込み上げてくる欠伸を噛み締めていた。
座り始めてからはや数時間。 こうも暇だとうっかり人を殺してしまいそうだった。
自分の武器であるメス、『殉粋無苦』に伸ばしつつある手を抑えながら、ぼう、と前を見る。
零崎になって八年。自制はそれなりにできている。 それでも、こんなに沢山の人に囲まれると危ないものがあった。果たして、軋識のほうは大丈夫なのだろうか。あぁ、でも自分よりは十分大人か。きっと大丈夫だろう。
そんなことを考えていたら、いつの間にか校長の話は終わっていた。
やっと式が終わったかと思ったのもつかの間、なにやらリーゼント頭の男がステージに上がっている。というか何故あの人は草をくわえているんだろう。澄織は密かに頭の中で突っ込んだ。

「次は、風紀委員長の話だ」
「…風紀委員長?」

思わず首を傾げてしまった。 一体、何故風紀委員がここで出てくるのだろうか。
つらつらと考えていたら(いーさん風に言うなら戯言だ)、ステージに学ランを羽織った人が立っていた。委員長だけどリーゼントじゃないのか。
ふと横を見ると、先生たちは緊張した赴きをしていた。心なしか先程より空気も緊迫している気がする。というかしている。
何が始まるのだろうか、と前を向いた瞬間に、その風紀委員長とやらが口を開いた。

「群れたら咬み殺す」


……。

以上らしい。



そのあとも色々なことをして、なんとかお開きになった。
余談としては、澄織のクラスは1-Aだった。
外に出て人混みを掻き分けて、何とか軋識へと辿り着く。

「お疲れ様っちゃな、澄織」

軋識は軽い笑顔で澄織の頭を撫でた。
澄織はそのままの状態で、先程の事を聞く。

「うん、少しね。 というかアス兄、風紀委員長って学校の権力者なの?」
「……この学校限定だと思うっちゃよ」
「…やっぱりそうだよね」

入学して早々だが、何だかこれからの生活に不安になってきた。
というより権力者が風紀委員ってなんかいやだ。

「澄織ー、車に乗るっちゃよ。家まで送るっちゃ」
「あれ、アス兄は泊まらないの?」
「これから夜に用事があるからな。済まないちゃ」
「ううん。 ならいいよ」

実を言うと少し残念だった。
久々に家族に会えたから、一緒にいたかったけれど、都合があるなら仕方ない。

「お詫びと言っちゃあなんだけど、今度、ケーキを奢るちゃよ」
「ホントに!? やったぁ!!」

嬉しさのあまり、澄織は軋識に抱き着いた。
スーツがしわになろうが関係ない。
やっぱり持つべきものは家族、である。
軋識との会話は途切れることなく、家まで続いたのであった。


「じゃあじゃあ、ショートケーキとモンブランとフルーツタルトとプリンね!」
「一部、ケーキじゃないのが混ざってるっちゃよ」
「いやいや気のせいだよ。 ふふふ…ワンホールだ……! アス兄の奢り最高!!」
「……奢られるならもう少し遠慮するべきだっちゃ」





二話終わり

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