十人十色 (2/3)

「うぉおおおおおおおおーっ!!!」

ほぼ裸、という変質者な格好をしたクラスメイトは、一切礼を言わずに澄織の前を駆けていった。
まるで嵐だ。

「……」

通りすぎた瞬間に、真剣に殺そうかと思った澄織は悪くないはずだ。少なくとも、これが双識だったなら、今頃ここに彼の首が転がっていることは火を見るより明らかである。


――キーンコーンカーンコーン……


「……」

そして、無機質な電子音のチャイムが虚脱している澄織の耳を打ったのであった。


*


「おっはよー…」

ガラリ、と教室のドアを開ける。
ちょうど休み時間だったのか、クラスメイトたちはちらり、とこちらを見ただけで、何事も無かったかのようにざわめきが上がっていた。時々こうして遅刻してくる綾波澪が、何故か無傷なことは周知のことだ。
てくてくと、澄織は窓際の一番後ろという最高なスポットに存在する自分の席に荷物を置いて座った。すかさず、前に座る黒川花が振り向いてくる。…顔が若干呆れているように見えるのは気のせいではないだろう。

「おはよう、じゃないでしょ澪。朝はどうしたの」

ぐったりと机にもたれ掛ける澄織の頭を、花はぺちりと軽く叩いた。友人以上親友未満、と言うのがこの二人の関係である。つかず離れずという距離感が、澄織には気軽で一番いいのだ。もちろん、それを察して、必要以上にベタベタとしてこない花は適役であった。

「あー…、うん。……人の趣味っていろいろだよね」
「は?」
「だから、十人十色だなー、って今日は悟ったよ。半裸で走り回る変質者も、殺人して何も感じない殺人鬼も、ね。…皆個性だなって」
「……あんた、熱でもあるの?」

面倒なので澄織は先程のことを要約して説明したところ、怪訝な目で花は見てきた。いきなり変質者やら殺人鬼やらについて語るので、心配されるのは無理もない話だったが。
すかさず、澄織は顔だけ上げて口を尖らせて反論をする。

「失礼なー。わたしはこれが正常だよ正常。患者でも手術対象でもないよ?」
「オペってねぇ…あんた……」

はぁ、と花が溜め息をついた瞬間に、教師が教室に入ってきて会話はお開きとなった。澄織も授業は真面目に受けるので、鞄から教科書と筆記用具を出した。




「――であり…――。―――なので、―…」

科目は数学。勉強はある程度軋識や舞織から習っていたため、退屈だった。確か最後に習った内容は、高校生最高学年のものだった気がする。
暇だなぁ…。
澄織は欠伸混じりに窓から外を眺めた。

「……?」

一瞬、何かがキラリと鈍く光った。
目を凝らして見るも、木が風に揺られてざわめいているだけで何もない。やっぱり気のせいか―――いや、あった。

身体中に木葉を貼り付けた赤ん坊が、木々に紛れて忍んでいた。何故か片手にはおおよそ日常において、必要とは感じられない銃が握られている。
当たり前だが、そんな存在は普通ではない。異質で異端だ。まず大抵の人なら、我が目を疑うか、その存在を認めないだろう。――または、恐れるか。

果たして澄織は、その光景を見て密かにふ、と口元を歪ませた。

「(甘いな…)」

あのような実力では《暗殺者》未満だし、《殺し屋》には到底及ばないものだ。
実際に逢ったことはないが、あれが表世界の裏、マフィアという組織の者なのだろう。双識が珍しく憎々しげに話していたから、マフィアという存在自体が零崎、澄織にとっては敵だ。さすがに此処で殺さないが。





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