過ぎた驕り (2/2)

「過信しすぎですよ、自分のこと」
「っ!!」

澄織の殺気で動かなくなったらしく、学ランは勝手に地面に崩れ落ちた。
殺意の塊、純度100%の零崎の殺気だ。
ある程度抑えされているとしても、かなりきついはずである。
予想通り、辛そうな表情をしている彼を、澄織は殺気を出したまま上から高圧的に見た。

「――大体、並盛の秩序と呼ばれているからって最強だと思うのは、間違っています」

本当にこの学ランはむかつく。
《最強》というのは、もっと強くて、格好良くて、美しくて、そして―――、

「……世界(大海)は広いんですよ、蛙さん」

最後に一撃、蹴っておいた。
こんなもの如きに《最強》の名を語らせる気はない。
小さい頃から幾度となく兄から聞いてきた深紅の、請負人の話。
ありえないような、活躍劇。
そしてその、恐ろしさ。
特に、長男である双識はその人の熱烈ファンで、いつも澄織に彼女の武勇伝を語っていた。
……何故知っているのかは分からないが。
澄織自身も、彼女には一度だけ会っており、その存在に圧巻された。
あれは、人類最強を語るに足りる存在だ。
恐らく、それ以上の者はいないと澄織は本能で悟らせたくらい。




―――というより、教室だ。
すっかり忘れていた。

「それでは、失礼します」

澄織は殺気を抑え、踵を返して校舎へ向かおうとしたが、後ろにいる学ランに呼び止められた。

「…君、名前は?」
「――普通、自分から名乗りませんか?」

澄織は軽く眉をしかめて言う。
学ランもとい彼の名前は、入学した時に調べて(軋識がやってくれた)既に知っていたが、これは己から名乗るべきだ。
態度を見るに、井の中の蛙と言うのか、どうせ負けたことも偶然だと思っているのだろう。

「……雲雀恭弥」
「わたしの名前は綾波澪です。 それでは」

颯爽と澄織は下駄箱へ向かった。
もちろん教室に入ったときには、とっくにHRは終了して、クラスメイトたちから大丈夫だったかと問い詰められたが。





次の日、澄織は寝坊することもなく、いつも通りの時間に学校へ向かっていた。
そして正門に差し掛かったとき――、

「……うわ」

何故かそこに自称並盛最強雲雀恭弥が立っていた。
生徒たちはその横をびくびくしながら通っていく。
流石、恐怖制裁。
というより今日は、抜き打ちの服装検査が行われる日だったのか。 そうだったのか。
あいにく、澄織はそんなものを一切聞いていない。
よって、無視。

「(わたしは知らないわたしは知らないわたしは知らな――)」
「ねぇ、君」
「(知らない知らない知らない知らない知らない――)」
「君だよ。1-A 綾波澪」

生徒たちから注目を浴び始めているので、とうとう澄織は白を切るのを諦め、雲雀に向き合うことにした。
これでもう、軽く日常は離れただろう。
今回、澄織が中学校に通うにあたって、興味がある、というのが大きな理由だが、それは平凡な、ドラマで見るような普通の学校生活を前提としてのものだ。
というより、人識が送ったような人並みな学校生活に、澄織は興味があったのである。
澄織曰く、――通うだけなら、興味なんて湧かないよ。
らしい。

「――おはようございます委員長さん」

とりあえず、挨拶はすることにした。
人間、鬼でも挨拶は基本だと、かのシスコン兄貴も言っていたし。
常識的なことだと思う。
裏世界の者は、そういうことに関してはすごく律儀だ。
しかし――、

「綾波、今日の昼、応接室に来て」
「―――…はい?」

人間の基本すらこの人の頭には標準装備されていなかったらしい。
挨拶を、無視された。
自由気ままな風紀委員長は用件を伝えて満足したのか、そのまま呆然としている澄織を置いて、すたすたと去っていった。

「……自己中だ…」

一人残されぽつんと立つ澄織から、そんな呟きが洩れたとか。





三話終わり

……………………
とりあえず、そんな話。
やっと三話。
澄織ちゃんが子供っぽいかもしれないけど、まだ十三歳ですからね。
十分子供ですよ。
敬語だったのは、雲雀さんが上級生だったから。 流石常識人だよ澄織ちゃん。
ひとまず彼女の平穏は消えた……はず。←




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