過ぎた驕り (1/2)
清々しいまでに晴れた日の朝、住宅街の中を澄織は走っていた。
理由は簡単。
「ち…遅刻だぁあー……!!」
現在の時刻は八時半。
HRの開始時刻も八時半。
死亡フラグが立っていた。
今、澄織の頭の中では、いかにして誰にも気付かれずに教室に入るか、という計画を立てていた。
そして、数分もしないうちに正門前にたどり着く。
「……うわぁ」
そこには雲雀恭弥率いる風紀委員たちが張っていた。いや、委員長はここにはいなかったが、十分脅威だ。
恐らく彼らは、遅刻者を取り締まるためにいるのだろう。
入学してからまだ日は浅いが、澄織の耳にも風紀委員たちの噂は幾度となく入っていた。
暴力による制裁、秩序、更正。
ろくなものではない。
裏世界の者が言える立場ではないが。
仕方がないので、澄織は裏に回ることにした。
強行突破はできないことはないが、下手に注目は浴びたくはない。
今はまだ、その計画が後悔することになるなんて思ってもいなかった―――。
「―――よし、ここから……」
澄織は独りごちて、閉められた門を助走をつけ、飛び越した。
そのまま足を引っ掛けずに、スタッと音もなく着地する。
いくら澄織が十三歳と言えど、裏世界の者。こんなことは造作ないことだ。
そしてその勢いで、下駄箱まで走りかけたとき――。
「なにしてるの? 君、遅刻者だよね」
いきなり鈍い煌めきと共に、トンファーが横から襲い掛かってきた。
「―――は、」
澄織は、身体を屈ませることでその攻撃を避け、その体勢のまま脚蹴りをして、対象者を地面に叩きつけた。
いつものように愛用の武器、『殉死無苦』を無意識に手をかける。
「ぐっ……、う」
――どうやら叩きつけられた衝撃で、相手は動けないようだった。
ならば、早く仕留めるまでだ。
どちらにせよ、零崎一賊に攻撃をしてきたのだから、いつかは殺される運命だろう。
と、そこまで考えて、澄織はハッとなった。
遅刻してきた自分の方が悪いよね――?
どうやら、攻撃されかかったことは気にしていないらしい。
そのまま放置するわけにもいかず、未だに地面にうずくまっている学ランに話し掛けることにした。
「大丈夫ですか?」
「……何?避けないでよ」
大丈夫らしい。
ムスッとした顔で返させても困るな、と澄織は思いながら学ランに言う。
「避けたら、わたしが痛いです」
「遅刻者は大人しく咬み殺されなよ」
「……」
話が通じない人だった。
というより何なんだこの自己中人間は。手術対象だ患者さんだよ。脳内で一人突っ込む。
さりげなく、どこぞの赤い人を思い出してしまった。……いやいや、あの人は零崎にとっての天敵だ。 同列は流石にまずい。 それに、この人に悪い気がする。
…ひとまず、早く教室に行きたかった。
まずは、この理不尽人間を説得することにしよう。
「遅刻したことは事実ですが、怪我はしたくないです」
「煩い。秩序は僕だ。 大人しく咬み殺されな」
懲りずにまた攻撃しようとしてきた。
やはりただの馬鹿だ。
裏世界の者だったら、一度救われた命を無駄にせず、そのまま相手の優しさに甘んじて逃げようとするのに。
これが、表と裏の違い、というところか。
――――というより、
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