ここまで読んでいただきありがとうございました。 これにて全5話、水槽の花は終わりです。 また連載せずに完結したなとか、いつもより文章がふわふわしてるなとか、あれこれ自分でも思いますが、とりあえず、まずは作品の解説をば。 この作品のタイトルですが、変換ミスではなくほんとうに「水槽」の花です。イメージするのは、中型の水槽のなかで、ゆらゆらと無気力に漂う花の光景。 水葬だとオチが分かってしまってあまりに直球すぎやしないか? と思って、少しだけ捻りました。 そして作中で夢主が語った、仁王くんを例えるならば川、という内容にも関係しています。幸村くんは華やかな花畑。仁王くんは涼やかな川。そうして彼女が好んだのは――。というところで話が終わっているのでとても中途半端ですが、なんとなくオチは伝わったかと思います。よかったね仁王くん! 本人は知らないけど! Q.救いはないのだろうか!? A.ないです! たまにはこういうオチもありかなと思って書ました。 両想いであることも、誰が何を考えていたのかも、この物語ではすべてを把握しきれている人はいません。 彼女は、幸村くんのことを大好きな幼馴染と考えていましたし、仁王くんに片想いしつつも向こうからも好かれていると気づいていましたが、本人から「好きな人はいない」と言われたために己の勘違いだったのだと考え直しました。 幸村くんは、彼女のことを幼馴染としてではなく恋愛対象として真剣に想っていました。彼女が仁王くんを好いていることには気づいていたため、仁王くんのことをライバル視していましたが、それだけです。仁王くんの好きな人のことも、彼女が入院していることも、不治の病に罹っていることすら知りません。 仁王くんは、彼女の想い人は幸村くんなのだと考えていました。「川が好き」ということがどういうことなのかも知りませんし、それを確かめるために彼女に会うつもりもありません。ただ自分の恋心の終わりと彼女への手向けのために、花束を投げただけです。 ついでに柳生も、彼女の伝言相手は察していましたが、詳しい内容は知りません。仁王くんの様子からあまり喜ばしい内容ではなかったことは理解しました。それにしては、「知っている」と言ったときの彼女はどこか祈るようで、嬉しそうだったのになぁとも思っていますが、落ち込む仁王くんにはさすがに言えませんでした。 まさに言葉足らずの悪夢の循環。 ここがディスコミュニケーションの墓場か。 どんなにその人が好きでも、関心を寄せていても、相手の気持ちなど真に分かり切ることはできない。本人ですら己のことを把握しきれないのだから、況や他人をや。相互理解はどうしたって不可能なのだ、という話でした。人は永遠に孤独でしかない。 ……それでも、少しでも近づきたいのならば、私たちはできるかぎり言葉を尽くすしかない。そのために言葉はあるのだし、その努力を重ねることで、もしかすると多少の孤独は薄まるかもしれない。 そんな想いも込めた話でした。 教訓じみてるな?! いやいやそんな真面目なお話でもないんですけどね! 主観的世界では真実でも、客観的に見ると真実ではない物事もあるのだなぁと思っていただければ幸いです。 それに言葉を尽くすと言っても、物の言い方次第で人を殺せるので気をつけなくてはなりませんし。コミュニケーションと人間ってムズカシイ。 つまるところは、ふんわりと冬の空気に溶けた、よくある青春のほろ苦い思い出と反省のお話でした。 死ネタはエッセンスです。 全体的なテーマは、「ディスコミュニケーション」と「秘密」ですが、細かいキーワードだと「茜色の空」と「花」でしょうか。 1日の終わりを告げる茜色の空はまるで血液の色のようで、命を燃やしたような輝きがある。死にゆく彼女はそれを何度も見て、視界から色を失っても考え続けていました。そして、正反対である早朝の青い空がラストにやってきました。 花について、私は人生の節目に手に入れるものだと考えています。華やかで、脆くて、祝福や死を悼むために差し出されるもの。それはもしかすると、生と死、愛と哀を表しているのかもしれない。一瞬の輝きであるがゆえに美しく、物悲しいからこそ人は惹きつけられる。 ……なんて大層なことは考えていませんでしたが、死ネタなので出してみました。 文体については、意図してふわふわさせました。 いつもより平仮名多め、比喩表現も多めです。 主人公の語りを信頼性のないものにしつつ、地に足をついてない感じにしようとしたらああなりました。いつもと違っていて書いていて楽しかったです。 それでも耐えきれずに、仁王視点ではいつも通りのすこし硬い感じになりました。漢字が多いのでパッと見で区別がつきやすい、はず。 というか、一人称視点はもう書かないとGalgenhumorのときに言っていた気がするんですけど、また書いていましたね。今回は楽しかったのでよかったです。次回も機会があったときは楽しみたいです。 中編を書くというのは初めてでしたが、タイトルを使いつつやってみると案外さくさくと構想が思いつくものでした。 ちなみにイメージソングはぽわぽわPさんの『そらのサカナ』です。穏やかながらも空に沈んでゆくイメージが美しくて大好きな曲です。ぜひ聴いてみてください。 ……それにしても、4話まで書いておいて、オチの5話を書くのをほぼ5年間も放置していたのは我ながらどうかと思います。 そして、このオチと話の流れの加筆修正と後書きをまとめて数時間で書ききったんですけど、それもちょっとどうかと思います。書けるならもっと早く書こうね私! それでは長々と書きましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました! 今年はなんとかぬら孫の連載を終わらせたいなぁと思っているので、応援していただけるとありがたいです! それではまた! ≪ ≫ |