雨/00


なんとなしにテレビの電源を点ける。少しの間、電波が交信するノイズが走り、いくらもしないうちに、霧を晴らすように画面が明るくなった。
そこにはちょうどニュースキャスターが深刻そうな、それでいてどこか嬉しそうに事件を読み上げている姿が映し出されていた。

「――本日の午後未明、女子高生が血まみれの状態で近所の住人に発見されました。目撃者と付近に落ちていた凶器から、殺害したのは被害者の父親だと予測されており――」

事故現場の映像と共に、ひとりの可哀相な少女の顔と名前が画面に映る。ぼんやりとした覇気のないその表情を見て、なぜもっと明るい雰囲気のものを選ばなかったのかと、ふと思った。

前々からあの家庭はおかしかった、と名も知らない噂好きそうな女性の声が流れる。
真面目そうな子だったのに、と殺された少女の学校に通う生徒が話す。
画面に現れる彼らはみな、退屈な日常から離れられたことを楽しむかのように、どこか浮ついた雰囲気を醸し出していた。

――そのあともしばらくの間、父親の動機だとか、隠された闇の家庭だとかの、いかにもマスコミらしい根拠もない情報をなんとなしに流し聞き、次のニュースに移ったところでふつりとテレビの電源を切った。

騒がしい音楽と声が消えると、すぐに外の雨音が室内にまで響き渡る。大雨とまではいかないが、血痕を流すには充分の雨量だろう。ただ、この地域と事件現場の勢いが同じだったならば、の話だが。

「…………」

なんでもない、人が人を殺す報道。
きっと、数日後には誰もが忘れてしまうような、ありふれてしまった話題。
たとえばここでいま、自分が不慮の事故で死んでしまったとしても、きっと大々的に取り扱われることはないのだろう。人の死は、それほどまでに消費物として扱われるようになってしまった。

「…………」

目を閉じて、さきほどの不幸な少女を悼む。
顔と名前しか知らない人間。
こんな雨の日に亡くなってしまった犠牲者。
そして、おそらく愛されてこなかったのであろう子ども。
同情はしたくない――……だが、やはり、
と、そこまで考えて、ふいに目を開けようとした。

「…………っ」

しかし、
そこには視界いっぱいの灰色が――。


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