別れ/11


クリスマスを目前に控えたその日、とうとうクレプスリーは私に向かって言った。

「シルク・ド・フリークに帰るぞ」

私はただ、「あっそ」と、いつものように愛想のない返事をして、食べかけのトーストを口に入れた。
ピーナッツバターの塗られたトーストを紅茶で流しこみながら、クレプスリーのほうをちらりと見る。
弟分の敵をはたしたクレプスリーの表情は、硬くもなければ柔らかくもない。単にルーティンワークを淡々とこなしてきたかのような、きわめて平然通りの様子だった。
悲しくはないのだろうか。私は下部に残った苦い紅茶を飲みこみながら思った。ウェスターと出会わせた存在であり、ウェスターの人生を狂わせたバンパニーズ。そいつを始末していて、クレプスリーはなにも感じなかったのだろうか。

「用事はもういいの?」
「ああ、すべて終わらせた」

“すべて”終わらせた。
ひとつの出会いから始まった彼らの話は、すべて終わってしまった。
それはあの物語を知る私にとって、物寂しい響きがした。
妙にクレプスリーが落ちついているのは、弟分であるウェスターを殺したあのときから、こういった終わりを覚悟していたからかもしれない。いつかマーロックとまた出会って、敵討ちの代わりをはたす日が訪れるのだと。クレプスリーが旅をして、マーロックが街を点々とするバンパニーズであるかぎり、鉢合わせる運命だったのだ。
それがまさか、クレプスリーの故郷になるとは予想していなかっただろうが。

「もうチェックアウトする?」
「もちろんだ。こんな環境から一刻も早く離れたいわい」
「だよね。僕もあの静かな場所が恋しいよ」

クレプスリーの言葉に頷きながら、空になった皿を片手に席を立つ。
もうすぐチェックアウトをするのであれば、デビーに別れの言葉を伝えるのは不可能だろう。普通ならば、もう二度と会えないのが決まっている。
でも、もしも私が原作通りに話を進め、彼女が原作通りにあの人生を送っていたら、また私たちは再会できる。あの学校で、あの教室で、数奇にも教師と生徒という立場で巡り会える。

それまではしばらく、お別れだ。
彼女の幸運を祈っておこう。


prev top next 》

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -