Hands/10


エレンはその後、デビーに街中を案内してもらった。とはいっても、デビーもこちらに引っ越してきたばかりらしく、ほとんど二人で街の散策をしたようなものだった。

「あたし、あなたの姿を窓から見ていたのよ。いっつも食材を買ってホテルに戻っていたでしょ?」
「ああ、あれはホテルの料理があまりにもまずくてさ。自分で作ったほうがまだましなくらいだったんだ」
「へえ、料理が作れるの? すごいわね。男の子で料理って、なかなか聞かないわよ」
「そう? 慣れたらなかなか楽しいよ」

デビーは赤い手袋を無くしたらしく、エレンは街を歩くついでに彼女の手袋を探す手伝いをした。
実のところ、エレンは手袋の行方を知っていた。しかし、言ったところで面倒になるのが目に見えていたので黙っていた。「君の部屋の電気ヒーターの裏に落ちているよ」などと告げたところで、訝しまれるか、変な奴だと思われるに違いないからだ。

「あなたはよく見かけたけど、お父さんは見ないわね。お仕事なの?」
「うん。夜型の仕事でね、朝はいっつも寝ているんだよ」
「ふぅん……。子どもをほったらかして働くだなんて、ひどいわね」
「仕方ないよ。仕事なんだし。それに、僕はぜんぜん気にしていないんだから」
「ダレンって大人みたい。本当にあたしと同い年?」

デビューはからかう口調で笑った。
エレンとしては否定するわけにもいかず、曖昧にほほ笑むことしかできなかった。精神の年齢でいえば、たしかにデビーよりも年上だったからだ。

ふと、エレンは彼女の手が寒そうに合わさっているのを目にして、さりげなく右手で彼女の左手を握った。
彼女の唐突な行動に、デビューは驚いた様子でエレンを見た。なにか疑問を投げかけられる前に、エレンはやや早口で呟く。

「手、冷たくなってる」
「……、あなたのは温かいわ」

握り潰さないように、そっと柔らかく包みこむ。半バンパイアであるがゆえに温かいエレンの熱で、デビーのかじかんでいた指はほぐれていった。

話を逸らされたことに気づかないのか、デビーは心なしか嬉しそうにエレンと手を繋いで歩いていた。
エレンもそんな彼女を横目で見て、無意識のうちにほほ笑んでいた。


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