Girl/09


翌朝、エレンはまたホテルを出た。クリスマスが近いためか、街中はどこを見ても浮ついていた。クリスマスソングがあちらこちらで聴こえてくるし、サンタやトナカイの人形を見かける。冬休みだからか、子どもの姿が目についた。
その溢れんばかりのエネルギーを、足元に積もった雪が吸いこむ。強い光を淡いものさせ、競る足を遅くさせる。雪は、人を落ちつかせる力があるのだろう。

マフラーを部屋に忘れてきてしまったが、半バンパイアであるエレンに問題はなかった。この程度の気温ならば、夏の格好でも十分歩き回ることができる。もちろん、周りから浮いてしまうので、そのようなことはできやしないが。
外に出たはいいものの、どこに行くべきかとエレンが街の案内図をじっと眺めていると、後ろから明るい声がかけられた。

「ねえ、そこのあなた」
「えっ」
「そんな格好で寒くないの?」

そこにはひとりの女の子が立っていた。つややかな黒髪で、肌はやや浅黒い。客観的に見ても整った顔をしている。にこりと微笑む彼女の目は、隠しきれない好奇心で輝いていた。
いまのエレンの格好は、秋物の服の上にコートを一枚はおっているだけだった。防寒具の類い、つまりマフラーや手袋は身につけていない。じつに寒々しい姿だった。

「まあ……寒くはないよ」
「うそでしょ。上にコートしか着ていないじゃない。あたしだったら今ごろ風邪を引いて寝こんでいるわ。
 それはともかく、あなた、どこかに出かける予定なの? もしかして観光?」
「えっと、まだ未定だよ。寒いから散歩だけしようかなって思っただけ。観光じゃあないかな」
「あら、そうなの。てっきりこの街の観光をするか、買い物をするかと思ったのに」

もうすぐクリスマスでしょ? と女の子はマフラーの下で微笑んだ。そして、自然な動作でエレンに手を差しだした。

「あたし、デビーよ」

エレンはすこし驚いた様子を見せたが、すぐに目を細め、デビーの手を握りかえした。

「僕はダレン・シャン。よろしく」


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