Softening/05


「なぜ、猫を被っとったんだ?」
「え、いやぁ……」

その後、クレプスリーのトレーラーへと戻ったエレンは、クレプスリーから上の質問をされた。
エレンは視線を横へとふらふら逸らした。

「クレプスリー以外のバンパイアに会ったのは初めてだったし……いい印象でも与えておこうかと……」
「フン、貴様がそのようなことを気にする性格だったとは、到底思えんがな」
「……失礼な。僕にだって、まともな常識はあるんだからね」

エレンは膨れながら言い返す。
実はクレプスリーとガブナー親子のファンだったなど、はたしてクレプスリーが信じてくれるだろうか。いや、そんなわけがない。
エレンは深く追及されないために、話をさりげなく逸らした。

「そんなことより、もうすぐここを発つんだよね?」
「ああ。……ガブナーは他になにも言わなかったか?」
「いや。ただ『ラーテンが発つから長居しても意味はない』ってさ。どこに行く予定なの?」
「言えん。第一、お前が知ったところで何になる」
「じゃあ、僕は留守番?」

エレンは期待の混じった目でクレプスリーを見る。
クレプスリーはううむと唸り、傷口を掻いた。

「それをいま悩んでおるのだ。お前を連れていけば、足手まといになる可能性もあるが、何らかの利益になるかもしれん。それに、我が輩がいなければ、すぐにお前は血を飲むことを怠けようとするではないか」
「……それ、ほとんど付いていくことが確定しているよね」
「うむ、そうだな。よし、ダレン、今日の夕方に出発する。準備をしておけ」
「えええー……」

そう言いながらも、エレンは素直に出口へと向かっていった。
いわゆる口だけの反抗というもので、本心から嫌がっているわけではないのが丸分かりだった。

「服は?」
「向こうで買う」
「蜘蛛は?」
「誰かに世話を頼んでおいてくれ」
「りょうかーい」

軽い口調で話す姿は、かつて無表情で見上げてきた子供と同じだとは到底思えない。それだけ舐められているのか、はたまた懐いてくれているのか。クレプスリーはふとそのようなことを思ったが、おおかた前者に違いないと結論づけた。
しかしながら実際のところは、後者の要素も含まれているのである。エレンにとって、クレプスリーは初めて親しくなれた大人だった。
いままで彼女は、クレプスリーに対して人間を辞めさせられた恨みがあったために、関係に難があった。が、それさえ無くしてしまえば、彼女が懐くのは時間の問題だったのだ。

エレンは変わりゆく自分に自覚のないまま、ゆるゆると時をすごしていた。
彼女がクレプスリーに対して信頼感のあることを気づくのは、数日後か、はたまた数年後か――。それは神のみぞ知る話である。


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