義兄弟/04


ショーはなんとか無事に終わらせられた。内心、冷や汗ものだったが、幸運にも血清を使う機会は訪れなかった。
私が蜘蛛の苦手なことを知っているくせに、わざわざショーに出させたあのバンパイアは悪魔に違いない。私を虐め抜きたいのかなんなのか、いい加減はっきりとしてほしいものだ。

「ちょっといいかい?」

私がトレーラーの群れの中をぶらぶらと歩いていたら、私を見つけたガブナーが話に誘ってくれた。
とくに断る理由もないので、私はおとなしくそれに乗った。

ガブナーはゆっくりと歩きながら顔の傷痕を掻いた。その動作がクレプスリーそっくりで、さすが赤子の頃から連れ回されていただけあるなと思った。
クレプスリーは認めたくはないのだろうが、ガブナーはやはり、彼の息子なのだろう。

「なあダレン、君はバンパイアになってよかったと思っているかい?」
「あんまり。慣れたからいいけど、もともと、かなり不条理な条件でバンパイアにさせられたし」
「じゃあ、ラーテンはどう思ってる?」
「……意地悪なところがあるから苦手」

私がぼそりとそう言い切ると、ガブナーは愉快そうに笑った。

「たしかにラーテンは頑固だし、意地悪だと感じるときもある。でも、それと同じくらい正義感にも溢れている、いいバンパイアだよ」
「それはまあ……、そうだけど」

クレプスリーがいい人物であることくらい、私だって知っている。
私に血を注いだこと以外は、本当にまともな人(バンパイア)なのだ。……そう、私をバンパイアにしたこと以外は。それが唯一にして最大の欠点なのである。
私が不満げにそう言うと、ガブナーはまた笑い、私の頭をくしゃくしゃに撫でてくれた。

「ラーテンにはほんと、いらいらすることがある。秘密主義だし、頑固だからな。何を考えているのかさっぱり分からないときもあるはずだ。
 でも、ラーテン以上の先生はまず望めない。最高さ。この俺が保証するよ。だからダレン、ラーテンを信じるんだ。そうすれば、困ったことにはならないさ」
「そうだね。なんとか頑張ってみるよ」
「君が素直で助かるな」

ガブナーはすっくと姿勢を正すと、足で地面を軽くトントンと叩きはじめた。
それがフリットをするための準備運動だと悟り、私はなんだか名残惜しくなった。

「もう行くの?」
「まあね、仕事がたんまり詰まっているんだ。でも、いつかきっと、山やら街で、また出くわすことがあるだろうよ。それまで元気でな、ダレン」
「ガブナーも気をつけて」

別れの言葉を交わし、ガブナーがフリットして去ったあとも、私はしばらく、ひとり草むらのなかで立ち尽くしていた。

「…………」

ガブナーはまるで兄のような人だった。私に兄がいたことはないが、仮にいたとしたら、こんな感じの人なんじゃないかと思えた。
……クレプスリーを親としたら、さながら私とガブナーは義兄弟みたいなものなんだよなぁ。

父親がクレプスリーという、かなりぞっとする想像をして、私は身を震わせた。
原作のダレン少年がクレプスリーを父親に思う分にはいいが、私にはまだ無理だ。というより、三十年かかったとしても“憎たらしい近所のおじさん”レベルが限界だろう。

憎んではいないが、心から好きかと問われればよくわからない。いままでの大人のように、頭ごなしに否定してきたりしてこないことは嬉しいのだが。それが信頼に繋がるかはまた別の話だ。

……ただ、クレプスリーが死ぬと、寂しい思いはしそうだ。きっと泣かないまでも落ちこむ。
しゃくな話だが、それだけは確かだと言いきれるのである。


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