Parent/16
「そういえば、あの話は傑作だった」
「……なんのこと?」
「お前が少年にしていたつくり話だ。ああ、まさかあんな話がお前の口から出るとは思わんかったな」
「えっ、聞いてたの!?」
エレンが慌てて立ち上がって問い詰めようとすると、クレプスリーは喧しいと言わんばかりに耳を押さえた。しかし、エレンは遠慮なくクレプスリーへと詰め寄る。
「あんた、ウルフマンを退治してたんじゃなかったの?」
「予想以上に早く終わってな。トレーラーに戻ろうとしたのだが、お前の話が聞こえたからそのまま楽しませてもらったぞ」
「悪魔だ……」
エレンは無遠慮なバンパイアを睨みつけた。人の話を立ち聞きするだなんて、ありえない。優れた聴覚を手に入れる代わりに、大切なモラルを喪失させてしまったのではないか。
クレプスリーは仰々しくエレンの呟きに反応した。
「なんと、悪魔とは人聞きの悪い! わざわざお前たちを配慮して、外で待ってやったというのに」
「親切心を出すなら、せめて僕たちの会話が聞こえないところでやってほしいね!」
ふん、とエレンはクレプスリーを睨む。
やっと認めかけていたらこれなのである。もしかすると一生、このバンパイアを好きになることはできないのかもしれない。
「(それでもべつにいいよ! 気にするものか!)」
わずかな寂しさに気づかないまま、意地っ張りな彼女は保護者たるクレプスリーと会話を続けていた。
クレプスリーも、やはり彼女の心持ちなど気づくことはなくそれに乗る。
端から見れば、それはまるで親子の喧嘩のようなものであった。
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