ほろ苦い/15

結局、サムを説得させることに私は成功させた。お涙頂戴な話はいつの時代も人の心を揺さぶるらしい。しめしめとほくそ笑みながらも、原作のダレンに謝っておいた。話のダシに使ってすいません。
そしてウルフマンも無事に捕獲されたらしい。R・Vの安否は知らないが、手の犠牲だけで済まされる気がしない。でも原作の流れの力があるかぎり、死ぬことはないはずだ。それに、仮に死んだとしてもオルタナティブが働いてくれるのだから。

私は熱いコーヒーを片手に、夜明けを迎えたキャンプ場でくつろいでいた。やや寒い朝だったが、半バンパイアの私にとっては十分心地好い気温だ。それに、温かい飲み物があれば、たいていの寒さはなんとかなるものである。

「あの子の命を救ったようだな」

しみじみとひとり静かな朝を楽しんでいると、気配もなくミスター・トールが横に現れた。
こうなることは分かっていた。私は素直に謝罪した。

「ごめんなさい。つい、身体が動いてしまいまって」
「幸い、問題は起きなかった。だが、これからは気をつけなければならないな」

未来を知っている苦しさは、同じ者にしかわからない。
ミスター・トールのように未来が見えるわけではないが、私にはその言葉がどこか自戒の響きが含まれているように感じた。

「はい」

頷き、朝日に揺れるコーヒーを啜る。
ほろ苦いはずのそれは、私に苦みだけを残して消えた。


prev top next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -