物語/14


「僕がバンパイアに?」
「正確には半バンパイアだけどね。大差はないよ。血は飲まなくちゃならないけど、人よりも長く生き、強くなれる」

さて、サムはどう出るか。

「――いいよいいよ! 最高だよ! バンパイアってなんかカッコイイね!」
「…………」

予想通りだ。私は呆れた表情を出さないように押しとどめた。
サムの考えはまったく正しくない。バンパイアは人の目を避け、正体が明かされないように転々と移動を続ける。味方は数百人だけ。たいていの人間からは恐怖か憎しみの感情をもらう存在なのだ。
これのどこに憧れるのか。クレプスリーが理解に苦しむ気持ちがよくわかる。
きっと幼い少年の目からすれば、超人的な力は魅力的に映るのだろう。

「バンパイアなんて惨めなだけだよ? 家族にも会えないし、人間の友人を作ることもできないし」
「でもさ、すごい力があるならいいんじゃない? オリンピックなら金メダル間違いなしだよ! 家族は……ちゃんとお別れを言えばいいし、友達ならダレンがいるもん」
「そう上手くはいかないよ」
「えっなんで? 表では有名なスポーツ選手で、裏は闇を駆けるバンパイアとかカッコイイのに」

いくら説得してもやはり分かってくれない。
それならば、これはどうだろうか。
私は頭を働かせて、とある物語を紡ぎだした。嘘と本当が混じった、ありえたかもしれない過去と、サムが絶対に恐れるような物語を。

「実はさ、僕もそうやって考えていたんだよ。バンパイアの力を使って、世界一有名なサッカー選手になるとか、最年少でオリンピック選手になるとかさ。
 でも、だめだった。ある日、妹の首元に噛み付いて、血を飲み干したくてたまらなくなってしまったんだ。……もちろん、そんな恐ろしいことをできるわけがない。だから、僕は泣く泣く家族と分かれたんだ。そのために死んだふりまでしてさ。すごく辛かったよ。両親や妹の声を聞きながら墓に埋められて……。本当は、家族と別れたくなかった。でも、そうせざるをえなかったんだ。だって、バンパイアの力をコントロールする術を学ばなきゃ、家族みんなを殺してしまうかもしれないんだから」
「ダレン……」
「だからさ、サム。お願いだからバンパイアになろうとなんてしないでよ。僕の代わりに家族を大切にして。そうしてくれたほうが僕には幸せなんだ」

嘘八百もいいところだ。でもサムが半バンパイアとして一緒に旅をするはめになるくらいなら、いくらでも嘘をついてやる。

「わかった、サム?」


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