子羊/12
サーカス開演前に私がふらふらとトレーラーの辺りを歩いていたら、R・Vよりも先にサムに出会ってしまった。
サムはトレーラーの下で息を殺してうずくまっていたが、半バンパイアである私をごまかすには少しばかりうるさすぎた。バンパイアから逃げるには、なるべく心臓と呼吸を止めたほうがいいだろう。仮に本気で殺す気になっているバンパイアを相手にしているのであれば、死ぬまでの時間が早くなるかどうかの違いしかないのだから。
「……かくれんぼ?」
「うわっ、ダレン!?」
しまった、という顔をされても困る。私も同じような心境なのだから。未来を変えないという約束をしたばかりだというのに、このまま見捨るのはさすがに難しい。
「僕、サーカスは駄目だって言わなかったっけ」
「いやだ! 絶対に行く! ダレンがいくらダメって言ったって、もう決めたんだから!」
「……はぁ」
頭が痛い。
聡明そうな子だとは思っていたが、やはり彼も子供らしい。シルク・ド・“フリーク”のサーカスに入ることがどれほどのものなのか、まったく理解していない。
「ダレンがいるなら平気でしょ? ね?」
「だからさ、僕はちょっとおかしいんだって――」
金属のぶつかり合う音が、鋭敏な私の鼓膜で響いた。ジャラジャラというそれは、看守が檻を開けるときの、鎖を揺らす音によく似ている。
「――まずい」
獣の――狼の咆哮が、月明かりの元で高く高く木霊する。
それは自由から解き放たれた捕食者の、私たち子羊へ対するメッセージなのだろう。
はっはっは、楽しいショーの幕開けだ!
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