Quarrel/10


とある死体保管所に訪れたエレンは、むすりと不機嫌を全面に出して椅子に座っていた。クレプスリーから血を飲めと何度言われようと、ふいと顔を背けて、従うことはおろか、そこから動こうとすらしなかった。

「こら、ダレン。いい加減にせんか」
「やだ」
「飲め」
「いーやーだ」

強情なエレンにいい加減やきもきしたのか、クレプスリーは肩を竦めて、大袈裟にため息をついた。

「なんとまあ、我が輩のお前に対する評価はずいぶんと変わったぞ。ああ、最初はあんなに冷静で勇敢な子どもだと思ったのにな。これではただの小学生ではあるまいか」

エレンは年相応の子どものように、ふんと鼻を鳴らして言い返す。

「普通の人間に対してだったら、いつもあんな態度だよ。ただ、あんたみたいに、僕に血を注いでくれちゃった人に優しくする義理なんてないね」
「なんと強情な奴だ。飢えて辛い思いをしても知らんぞ」
「……べつに。飢え死ぬほどの空腹なら、何度も経験したし」

ぽつりと呟いて、エレンは床に届かない脚を所在なさげにふらふら揺らす。
クレプスリーはその様子を見て、説得が効かないと悟ったらしく、血がたっぷりと入った試験管を懐にしまった。しかし、その表情は、呆れ返るというよりかはどこか子を心配する親のもののように見えなくもない。

「我が輩とて、それくらいの経験はある。しかし、だからといって飢えがよいわけではないぞ」
「わかってるよ。バンパイアは血を飲まなきゃ老化が早くなるんでしょ」
「その通りだ。そして、お前に死ぬ気がなくとも、老化が早くなればそのうち死ぬのだからな。お前はそのことを明確に理解しておるのか?」
「わかってるってば」

小康状態になっていた雲行きが、また若干悪くなってきた。

「本当か? ならば、今すぐにでも血を飲むべきだな」
「あーもう! そんなのは僕の勝手だろ!? 好きにさせてよ!」

過熱してゆく二人の言い争いに挟まれて、家主であるジミーはおろおろと狼狽する。見るからに幼い少年が四十代近い男性と口論しあう状況は、端から見ていても気持ちのいいものではなかった。

「あ、あの、君たち……すこし落ち着いたら……」
「ええい黙れ! 我が輩はお前がどうなろうとも、今後一切知らんからな!」
「ああ、こっちこそお引き取り願うよ!」

互いにいらついた様子で、エレンとクレプスリーはそっぽを向いた。


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