鏡/09


私とエブラはリトル・ピープルの世話に追われながらも、平和にシルク・ド・フリークでの生活を送っていた。R・Vとは原作通りに知り合った(腕を捻られたのは痛かった)が、たいした事柄はないので割愛する。

そんなある日、コーマック・リムズがシルク・ド・フリークに到着した。みんなが沸き立つ声はバンパイアの聴力でばっちり聴こえていたため、そういえば、もうそこまで原作が進んだのか、と呑気に私は考えていた。問題と言っても、サムにチケットを渡すべきかどうかをわずかの間に悩むくらいで、午後はサーカスの準備に追われて充実した時間を過ごしていた。
……そう、私はあることをすっかり失念していたのである。

「マダム・オクタのカゴを磨いてくれ。それからお前も、まともな服に着替えて、身だしなみを整えろ。服なら一式、そこに揃えているからな」
「えっ、なんで?」
「我が輩と一緒に舞台に出るんだ」
「……え? ほんとに?」

手伝いに来たものの、邪魔だと追い返されて、ふてくされていたサムに結局チケットは渡したが(もちろん、R・Vには渡していない)、自分がサーカスに出演することはすっかり忘れていた。

「といってもちょい役だ。カゴを運んで、マダム・オクタが我が輩の口に巣をかける間、フルートを吹いてマダムを操ってくれ」
「……あのさ、僕が蜘蛛が苦手なの、わかって言ってるの? それで操れって? 冗談じゃないよ」
「しかし、前に操っていたではないか」
「う……、見てたんだ」

ずいぶん前の話だが、一度だけ、好奇心からマダム・オクタを操ったことがあった。
なんと言っても、私は一応、ミスター・タイニーの息子だ。竜を操るかどうかはさておき、できるのならば試したくなるのが人の性というものだ。結局、調子に乗って、マダムとは小一時間も遊んでしまったが――もちろんカゴからは片時も出さなかったが――まさか、クレプスリーに見られていたとは、思いもよらなかった。

ちなみに、なんとなしに鏡を覗くと、そこ映る私の顔は蝋人形のように青白くて不気味だった。血は飲んだはずだったのに。私がそう呟くと、量が足りていないからだ、とクレプスリーからすぐに指摘を受けた。
癪だったので、無言でフルートを投げつけたら叱られた。理不尽だ。


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