ヒロイン/08


ミスター・タイニーは原作通りの人間だった。なんてことを考えたら心を読まれたときにまずいので、私は必死にリトル・ピープルについてばかり考えていた。はたから見たら、ただの奇人だ。

「ほう、君がダレン・シャンか」

ダレン・シャン、と私を呼ぶときに、ミスター・タイニーは厭らしく目を細めた。どうせ、私が偽名――本当はこちらのほうが正しいのだが――を使っていることが愉快だからだろう。いつか口を滑らせたふりをして、私の本名を言いそうなものである。

「誰に聞いても褒めていたぞ。なかなか見上げた若者じゃないか。妹のために全てを犠牲にするとはな。今の時代には珍しい、ニューヒーローの誕生だ」
「ヒーローだなんて、とんでもありません」
「んん? じゃあ悲劇の゛ヒロイン゛か?」

タイニーは眼鏡の奥でにやりと笑う。

「……ヒーローで正しいですよ」

ちくしょう。私はめったにつかない悪態を心中で呟いた。ちくしょう、こいつ、私の性別を知っていやがった。
私がしたのは賛辞への謙遜であって、決して言葉の訂正ではないのに。ここにきて、はじめて男子らしい口調になれたような気がする。
周りの人々はタイニーのただの悪い冗談だと思ったのか、私たちのやりとりは簡単に見逃された。

「まあ、そんな瑣事はどうでもいいな。さて、そろそろ本題に入るぞ」

気味の悪い心臓の時計を手にしたミスター・タイニーによる本題とは、要約すれば「リトル・ピープルの食事の世話をしてくれないか」という、頼み事のような命令だった。一応、譲歩をするような口調ではあったが、あれは命令でしかない。第一、好き好んでミスター・タイニーに逆らうような者はいないのだ。結局、私とエブラはしぶしぶながらもその依頼を承諾した。
私たちが頷く姿を見て、ミスター・タイニーは顔に浮かぶ厭らしい笑みをいっそう深めた。

「それでは健闘を祈るぞ、ダレン」

その健闘が、はたしてウルフマンとの戦いについて言っていたのか、はたまた私の人生全体について言っていたのかは、どうしてもわからなかった。というより、わかりたくもなかった。


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