友人/06


クレプスリーに無理やり連れてこられたシルク・ド・フリークは予想以上に居心地がよかった。
大人は半バンパイアだと知っていてもみんな優しいし、私の居場所がちゃんとある。エブラにいたっては、このエレン・シャンの人生にとって、初の友人になれたくらいだ。騒がしい子どもが苦手だったから今まで友人を作らなかっただけで、前世では控えめながらも、ちゃんと友人は存在していた。
そのことを考えれば、エブラは、私からしてみればかなり久々の、まともな――スティーブはどう考えても、まともではなかった――友人だということになるのだろう。

彼と仲良くなれたのは、一緒に身の上の話をしたときに、意気投合できたことが大きい。
私が両親に恵まれなかったことを言ったときに、エブラは同情するような反応をしなかった。それが、私にとってはことさら快闊に思えたし、エブラに好感を持てたのだ。
原作のダレンとエブラが友人関係だったからという理由だけではない、“私”自身が、エブラと友人になりたいと思ったのである。

スポンジでヘビを洗って、ウルフマンの餌やりを終えた私たちは、ぶらぶらとキャンプ場の周りを散策していた。
あらかたの境遇を話したあとは、たいていは趣味や好き嫌いなど、たわいのない内容に会話は向かう。

「えっ、ダレンって蜘蛛が嫌いなのか?」
「うん。あんな八本脚の複眼肉食動物、想像しただけで気持ち悪いよ」
「なんかすごく意外だな。あのクレプスリーの蜘蛛を世話してるんだから、てっきり好きなんだと思ってた」
「あれは仕方ないんだよ、仕事だし。でも、それ以外のときは……近寄りたくもない」

ふるりと震えて思い出すのは、前世で自分の鞄の中で潰れてご臨席していた蜘蛛の姿だ。体液なのか表皮なのか、よくわからないものがべったりと教科書に付いた記憶は、そうそう簡単には消えてくれなかった。

「エブラは、苦手な物とかはないの?」
「んー、たいていのものは平気だな。あ、寒さとかはちょっとダメかもしれないけど」
「……ヘビだけに?」
「そ、ヘビだけに」

そして二人で意味もなく顔を合わせて、しばらくケラケラと笑った。本当は失礼な話題のはずなのに、何故だか、くだらないくらいに面白く感じてしまったのだ。
その日の夜、クレプスリーから今日の行動を聞かれたとき、私はにこやかに笑って答えた。

「友だちができたよ」


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