Impression/03
クレプスリーが手下にしたダレン・シャンという少年は、実に不思議な子どもだった。
最初の邂逅はシルク・ド・フリークの場だった。友人に売られたにも関わらず、冷静にバンパイアと会話をする――その度胸ある姿がクレプスリーの気を引いた。
次に出会ったときは、前回の大人しさとは一転し、感情的にこちらを睨みつけてきた。不思議に静かな瞳は鋭く輝き、そこに初めて年相応の少年の姿を見たような気がした。やはり、ただの子どもだったのかと落胆しかけたが、激昂していたにも関わらず、頭の回転が速かったことがさらにクレプスリーを気に入らせた。
さまざまな経緯から、ダレン・シャンはクレプスリーの手下となった。しばらく共に旅をするうちに、あの静かな瞳はバンパイア特有の、外見の年齢と精神的な年齢の不釣り合いさから来るものだということに気づいた。
あの夜、クレプスリーの気を引いたのは、ただの少年の瞳からそのバンパイアの懐かしい気配を感じたからだった。
バンパイアであれば見た目が三十代でも、中身は百歳を越えるといったことはザラにある。ここ数百年は見かけないが、もし子どもがバンパイアになって何十年も経てば、このような空気を身に纏うはずだ。
はたまた、数百年前ならば、人間界であっても、過酷な労働でやけに老成した子どもは簡単に見受けられた。それを現代の子どもが体現しているということは、つまるところ、ダレン・シャンという少年は本人が主張するように、家庭で苦労をしてきたのだろう。クレプスリー自身、幼かった頃は従兄弟と共に理不尽な環境で働いていた。
――ゆえにあるいは、懐かしい気配とは、その従兄弟のことを思い出したからかもしれない。
だが、それがどうしたというのだ。
クレプスリーはその事に気づいたあとも、ダレン・シャンに対する態度はなに一つ変えなかった。クレプスリーにとってダレン・シャンはただの手下であり、自分を憎む子どもだった。いかに少年の生い立ちについて知ろうが知るまいが、その事実は変えようもない。だったら今まで通り、反抗的な手下として、厄介な復讐者として、考えて接していくほかはないのだ。
少しだけ変わった、手のかかる生意気な子ども――。それが、ラーテン・クレプスリーが抱く、ダレン・シャンに対する現在の印象だった。
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