Blow/18
最後に、町を出るとき、エレンは後ろを振り返った。
夜の明かりに点された町は、眠っているように静かだ。ここに生まれて十数年。冷たい扱いばかりを受けてきた記憶しかないが、長年暮らしていただけに、愛着がないかと問われれば悩むだろう。日本ほどではないが、それでも、気に入っていた場所は数箇所あったのだから。
エレンが立ち止まっていると、クレプスリーも無言で彼女の背後にやって来た。
「……こうして見ると、感慨深いよ」
「いずれ、時が経てば慣れるぞ」
クレプスリーは、まだ幼い少年の姿を見ずに言う。
「バンパイアに別れはつきものだ。ひとところに、決して長くは留まらない。生涯、荷物をまとめ、新たな土地へとさまよい歩く。それが、バンパイアの定めというものだ」
「そっか……」
半バンパイアになってしまった少年はぽつりと呟き、その言葉を受け止めた。
親から貰った名前を捨て、人間を捨て、ダレン・シャンという名前を語って生きることになってしまった自分。きっと、数週間の自分ならば、どうして運命を回避できなかったのだと馬鹿にするのだろう。
「エレンは……ここに置いていくよ」
誰に言うでもなく発されたそれは、誰の耳にも届くことなく、夜の風に乗って静かに消えていった。
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