血/01


血なんて飲みたくもない。飲むくらいなら、死んだほうがましだ。
これが半バンパイアになって二ヶ月目の、私の感想であった。

私の名前はダレン・シャン。本当の名前はエレンというのだが、それは生まれ故郷に捨ててきた。
私はつい最近まで普通の人間としてそこそこ平穏に暮らしていた。しかし、そこにシルク・ド・フリークというサーカスが訪れたために、その平和は終わりを告げた。

スティーブ・レナードという同級生に、無理やり一緒にサーカスを観に行かされたのが、不幸の連鎖の始まりなのだろう。スティーブはなにを考えたのか、出演していたサーカスの毒蜘蛛を盗んで、逃がしてしまったのだ。その蜘蛛は、あろうことか、私の妹を刺して意識不明の状態にしてしまった。
私は妹の命を助ける代わりに、泣く泣くクレプスリーというバンパイアによって、半バンパイアの手下にさせられた。人間の血を飲むバンパイアがひとつの地に永住することは難しい。仕方なしに私は生まれ故郷を捨てて、クレプスリーと共に旅に出たのである。

――実を言うと、私には前世の記憶があり、この世界の流れを物語として知識に蓄えていた。すなわち、未来を知っていることと同意義なのだ。
だから私は回避をするためにそれなりに努力はした。しかし、それでもこの展開を回避できなかったのだから、運命という奴はよほど意地が悪いらしい。

生まれたときから記憶があるために、私は奇妙な行動ばかりを起こしていて、親はもちろん、町の人々からも嫌われていた。そのため、何もかもを捨てて家を出ることは簡単だった。
ただ、それと人間を失うことは違う。人間のまま成長してから町を出て、旅に出るという長年の夢があったのに、それをあのオレンジ色の髪のバンパイアによって、めちゃくちゃにされたのだ。
この恨みは、当分晴れそうにもない。隙があったら殺してやりたいくらいだ。でも、未熟なバンパイアがひとりでうろつくことの危険性を分かっているから、やりたくてもやれなかった。

だったら、他方面で反抗してやる――それが、私が血を飲まない理由だ。それに、原作のダレンほどではないが、やはり人間だった頃の意識が強いため、血を飲むこと自体になかなか気が引けた。
たった一度だけ、クレプスリーに騙されて血を飲まされたことがあるが、あのときは自分でも驚くほど激怒した。人間のままでいたかったのに――! 私の主張は、はたして、ちゃんとあのバンパイアに通じているのだろうか。

ひとつだけ、人間だろうとバンパイアだろうと、関係のないことがある。それは旅をすることだ。こればかりは叶ったことが嬉しい。もし、いつかクレプスリーから自立したら、世界中を気ままに旅して回ることができそうだ。
だから、このまま血を飲まずにクレプスリーを困らせる反抗は続けるつもりだが、命に差し障りのない程度までには留めるつもりだ。
私だって、夢があるから死にたくはない。ただしそれまでの間は、せいぜいクレプスリーには苦労してもらおうじゃないか!


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