Boy/09


ラーテン・クレプスリーは自らの行動に対して驚いていた。
つい数分前に、自分の運命から逃げ惑うことを止めることを決意したばかりなのだが、こうも劇的に関わらされてしまうとは。昨日までの自分ならば、まさかバー・ホーストンと名乗っていた時代の絵を知る子どもがシルク・ド・フリークに現れ、あまつさえバンパイアになりたいと言い寄られることになるなんてことは、夢にも思わなかっただろう。

子どもをバンパイアにしようとするなど、正気の沙汰ではない。しかし、クレプスリーはどこからか沸き起こる声にそそのかされ、気がつけば少年の血を口に含んでいたのだ。
結果的に、スティーブという名のその少年は悪意にまみれた最悪の血を宿していたため、手下にしてしまうことはなかったが、それでも行動に起こそうとしたのは紛れもない事実だった。

「くそっ、覚えてよバー・ホーストン! オレをこけにしやがって! いつかお前を探しだして、この手で息の根を止めてやる!」

狂ったような高笑いをしながら走り去る少年を、クレプスリーは自己嫌悪にまみれながら見送った。あのような悪意しかない子どもに乗せられるなど、考えたくもないほど屈辱的だった。

「まったく、子どもというやつは!」

ふんと鼻を鳴らし、ハンカチで口元を拭ったところで、クレプスリーは先ほどの少年の相方がここに置き去りにされていることに気づいた。

「おい、置いて行かれておるぞ。貴様は逃げなくてよいのか?」
「別に。帰ったところで邪魔になるだけだし。ここらでのんびりして、朝になったら学校に行くよ」

のんびりと答える姿は、バンパイアを相手にしているとは思えないほど落ち着き払っていた。

「我が輩がバンパイアだと聞いても、お前はまったく怯えんな」
「まあね。魔女だっているかどうかはわからないんだし。もし実際にバンパイアがいたとしても、あなたはきっと襲わないでしょ? だから、怖くないよ」

どうやらあの少年とはまたひと味違う、変わった雰囲気の子どものようだ。一般的な長さの黒髪に、エメラルドの瞳。無地のTシャツにジーンズという出で立ちだけを見れば、どこにでもいそうな、ありふれた子どもだった。――しかし、どうも目つきがクレプスリーの知る普通の子どものものとは違っていた。
なるほど、これは魔女だとありもしない噂を立てられるわけだ。クレプスリーはひとりで納得し、頷いた。

「そうか、ならばよいのだがな。……そうだ。あのスティーブとかいう奴とは関係を考えるのだぞ。少年よ」

去り際に『少年』と呼ばれた男の子――エレン・シャンは、にこりと実に子どもらしい笑みを浮かべた。

「もちろん」


※魔女狩りの時代の魔女観では、魔女は多くの場合女性でしたが、時には男性の魔女もいたとされています。それに基づいて書いてみました。


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