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一難去って


その日のナツメは早く施設に帰る予定だった。
四国編が開始していることが分かっている以上は、それに関わらないように細心の注意を払わなければならない。原作をねじ曲げないためにも、リクオらに関わらないためにも。そのためならば、早々に帰宅する程度の努力は苦もないことだった。

鞄を揺らしながら、ナツメは通いなれはじめた駅までの道を歩く。郊外に位置するこの街は、雑多ながらも暖かみがある。商店街の人とは常連になれば声をかけてくれるし、さらに親しくなれば買い物の際におまけだってしてくれる。通行人もむやみやたらと諍いを起こさないので、それなりに整った街にしては穏やかなほうだろう。
もちろん、一番街などの繁華街はまた別のはなしだ。あそこらは子供が夜に出歩くにはいささか以上に危険すぎる。浮世絵町に暮らす子供ならば、幼い頃から親にさんざんそう言い聞かされて育ったことだろう。
ナツメがその一番街の近くに差しかかったとき、ふいに明るい声が耳に飛び込んできた。

「あれ、ナツメちゃん?」

振り返ると、そこにはカナとゆらが立っていた。原作の知識から察するに、これからカナの家に訪問しにいくのだろう。
カナはにこりと笑みを浮かべた。

「こんなところで奇遇だね。これから帰り?」
「うん。そっちは?」
「ゆらちゃんが私の家に上がる予定なんだ。……そうだ、ナツメちゃんも来ない?」
「でも悪いよ、そんな……」
「いいのいいの! 遠慮しないで」

ぜひ遠慮したかったナツメだったが、カナに対して強く言い出せなかったために、そのままずるずると訪問することとなった。

これは嫌な予感しかしない。

遠ざかる駅を見ながら、ナツメは物憂げに息を吐いた。




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