Angsthase | ナノ
うたかたのマチ


「浮世絵町が……ない?」

ナツメはいつものように朝を迎え、学校へ向かうために施設を出た――はずだったのだが、電車に乗ったあたりでどうもなにかがおかしいことに気づいた。
違和感は、時刻表がいつもと異なるところから始まった。ナツメはそれをダイヤの変更に自分が気づかなかったからだと思い、あまり深くは考えなかった。よくよく考えてみれば、鉄道会社がダイヤの変更を急に行うわけがないというのに。
次に、車内にある、停止駅を随時知らせる電光掲示板に浮世絵町という名を見つけられなかった。まさか寝ぼけて反対線に乗ってしまったかとナツメは焦ったが、すぐに窓から覗く景色がいつもと大差がないことを確認した。
たまたま見間違えてしまったのだろう。そう自分に言い聞かせたナツメだったが、電車が駅を進めてゆくにつれ、その自己暗示は次第に解けていった。

浮世絵町がない。

ナツメがそれを確かに認識したのは、電車に乗ってから二十分後、施設を出てからゆうに四十分が経過した頃だった。

電車のアナウンスが平和な声で、次の停車駅を知らせる。
その代わりとしてナツメが発見したのは、もう二度と訪れることはないだろうと考えていた地名だった。

「×××……」

呟いた言葉は懐かしい響きを含んでいる。
それは、転生する以前のナツメが住んでいた、とある土地の名前だった。




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