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対岸の在り方


午後の女子ソフトボールは雨天により、代わりに体育館で手押し相撲が企画された。
年若い少女たちがある部分(主に胸)や、ない部分(これも主に胸)を使って押し合う姿は、拙いからこそ、どこか危うい魅力がある。牝鹿のように白くしなやかな肢体、少女同士が絡みあう蠱惑的な動き。甲高く喧しい声を差し引いても、なお魅力的な力があることは否定できない。これを企画した教師は、明らかに卑猥な目的を持って発案したのではないかとナツメは訝しんでいた。
狭い台に二人の少女が乗り、胸や手を絡ませては強く押し、時には引き合う――文面だけで判断すれば、どこぞの官能小説で見受けられるような内容だ。

きゃあきゃあと歓声を上げながら騒ぐ同級生たちを、ナツメはやや離れた場から冷ややかな目で観ていた。卓球の試合を一回戦で終わらせたナツメはそれらの勢いに乗って騒ぐ気力もなく、床に座りこんでいた。

「(勝敗うんぬんよりも、巻ちゃんの胸がこれをいい機会に盗撮されていないかが心配だ)」

中学一年生にしては発達しきった彼女の胸は、同性から見ても羨ましいかぎりだ。まだ精神的に幼い男子たちはともかく、教員や上級生にとってはさぞ素晴らしいものだろう。
巻が胸だけで対戦相手を場外に出している光景を、ナツメの近くにいた年上の男子は嫌な声で騒ぎたてた。そばにいるだけでもゲンナリする。

「(……教育現場の末期だ)」

呆れた声で吐き捨てて、ナツメは立ち上がった。自分の試合は既に終えているため、わざわざ観戦する意義もなければ意欲もない。巻の平穏をそっと心中で祈りつつ、ナツメは喧噪にあふれた体育館を後にした。




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