Angsthase | ナノ
不変の範囲


その翌日。つつがなくナツメは朝を迎えた。実際には、牛鬼が謀反を起こしてリクオと戦ったり、氷麗が午頭丸によって傷を負ったりしたのだが、もちろんナツメにはなんら関係がない話だ。
一部、彼女に関係があるとすれば、馬頭丸率いる巨大妖怪らが温泉を破壊したことくらいだろう。しかしそれも、べつだんシャワーが使用できるのであれば問題はないし、そもそも破壊する騒音ですらナツメの疲労には勝てなかったらしい。結局、ナツメは一瞬たりとも目を覚ますことなく夜を明かしたのだった。

ナツメたちがいる部屋はベッドが二つあり、その近くには高級そうなソファーとテレビが置かれている。そのなかで巻と鳥居はナツメが座っていないベッドに、ゆらとカナはソファーに座っていた。氷麗の姿は見えないが、おおかた玄関でリクオを待っているのだろう。

「ほんとにもう大変だったんだからー!」
「運いいよーナツメは……。ああ怖かった……」
「そ、それはご苦労さま……」

巻たちはナツメに昨夜のことを話していた。寝起きをしたばかりのナツメは、彼女たちの勢いに押されて引きぎみだ。若いっていいな、と考えるナツメの精神年齢は約三十歳。中学生のようには騒げない大人であった。

「みんなが無事でよかったよ」

総括するようにナツメはにこりと微笑む。それは本心からの言葉だった。巡里ナツメという不確定要素がありながらも、彼女たちが大怪我を負うことなく、ここにいることは奇跡のように思えていたのだ。
はぐらかすように笑ったナツメを見て、巻や鳥居は少し驚いた顔になった。

「……ナツメって普通にかわいいよね」
「うん……」
「そうかな……?」

鯉伴と若菜のDNAが入っているのだから容姿がよくないわけではないが、いかんせん周りの人間が美麗すぎていたために、あまり自分が可愛いだとか、綺麗だということを考えたことがなかった。首を傾げるナツメの顔を、巻はじっと見つめる。

「眼鏡がハーフミラーだからよくわかんなかったけど……ちゃんと見たら顔は整ってるし、綺麗な瞳の色をしてるし……」
「あの……、そんなに見られるほどのものじゃ……」
「眼鏡掛けてたらもったいないよー!」
「ホントホント。コンタクトにしちゃえばいいのに」
「いや、コンタクトはちょっと……」

そもそもこの眼鏡は伊達なのだ。決して視力が悪いわけではなく、ただ、目の色を隠して、他人との距離を取りたいがために掛けているだけなのである。しかし、ナツメはさも目に何かが入ることが怖くて、嫌なのだとほめのかす言葉を口にした。
はたして、彼女たちは納得したようなそぶりをした。しかし、それでも眼鏡を外すように要求をされるナツメは、逃げるように窓のほうを向く。そして、ちょうどよく、ふいに見知った影を見つけた。

「……あ、奴良くん、帰ってきたみたいだよ」
「えっ、本当?」
「奴良のヤツ、どこ行ってたんだよー!」

少し怪我をしているようだが、リクオが元気そうに歩く姿を目にして、ナツメはようやく心から安堵することができたのだった。




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