Angsthase | ナノ
めかくし怪奇


「(き、来てしまった……)」

ナツメはどんよりとしながらシートにもたれ掛かっていた。その周りでは中学生たち、つまり清継率いる清十字団が元気に騒ぎながら妖怪ポーカーなるものに興じていた。ナツメは寝不足だという言い訳をして――清継から体調管理がなってないと叱られたが――その様子を眺めることだけに徹していた。面倒だから加わりたくないというのもあるが、なにより身から湧きあがる自己嫌悪で、遊びに興じられるほどの心の余裕がなかったことが最大の理由だ。

「(ああ、“原作”にどんどん巻き込まれている気がする……)」

かつてナツメは父親であった鯉伴を救おうとしてその身を投じた。結果的にそれは確かに鯉伴を救うことができたのだが、それによって生じた原作との歪みはかなりの大きさだ。
あのときは原作などというものに構っていられなかったし、そもそもいずれ自分には関係のない話になると思っていたからこそ起こせた行動だ。
このようにまた転生して原作に関わってしまうのならば、それ相応のなにかを考えるべきだった、と頭を悩ませたのはつい最近のこと。鯉伴を見捨てたかったわけではないが、もっと良い解決方法がなかったのかとつい過去の自分を責めたくなってしまう。

「(……私が原作に介入しなければ、こんなに悩むことはなかったのに)」

正確には、原作の知識をなくして彼らに介入しなければ、もっとナツメの心は平和だったのだ。
しかし、現状のナツメは原作に巻き込まれているし、ここの未来も知っている。自分という不確定要素がなければ、または鯉伴の生存というありえなかった現実がなければ、元弟のリクオが、この危険な妖怪任侠世界で傷つきながらもちゃんと生き抜くことができたことを知っている。だが、その原作はこうして歪んでしまっている。もうリクオが無事に成長できる保証など、とっくになくなってしまっているのだろう。
鯉伴の命も大事ではあるが、リクオのことも十分に想っているのだ。
だからこそナツメは悩むし、原作にあまり介入したくなかった。

万が一のためにリクオを側で守るべき――でも、あまり関与しすぎると成長に妨げが出てしまう――。
考えはいつもどん詰まり、低迷してしまう。未来を知っているということとは、それほどいいことでもないのだ。ナツメはそう考えている。
精神的優位に立つことができる一方で、不測の事態を恐れながら生きなければならない。異なる結果になる可能性にも怯えなくてはならない。未知の未来に希望を抱けないことを考えたら、むしろ負の面が大きいように思える。
そして、ナツメがリクオに対して強い行動を起こせないのは、未来を変えること以上に、弟について考えることが辛かったのもあった。

――自分はもう、“奴良ナツメ”ではない。

それがナツメの脚を枷として引っぱって、いつも動かないように留めてしまう。
あの人たちとは家族ではない。奴良リクオは弟ではないし、そもそも友人ですらない。その事実が耐えようもないほどにナツメの心を圧迫するのだ。

「(私は、どうして生きているんだろう……)」

かつて呟いた言葉をまた心中で繰り返す。
家族ですらなくなった、かつての大切な人たち。関わらないことが最善の平和な未来。なにもしないことがきっと最良なのだとすれば、いったいどうして自分はここに存在しているのだろう――。
ナツメは原作に関わってしまった自分に嫌悪しつつ、ぐるぐる渦巻くそれを心の奥底に押しこんで、新幹線の窓から走る景色をぼんやりと眺め続けた。




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