Angsthase | ナノ
透過する子


それはもう、諦めていたことだった。

髪は切ってしまったから、前ほど上手くできないかもしれない。私は溜め息混じりにひとりごちた。魔力は髪に宿るとはよく言ったものだ。たしかに妖力も髪に宿る。大妖怪の髪が長い傾向にあるのはそのためだろう。でも、少しでもできてしまったのならば有効利用しない手はなかった。
ふいに風が吹き、癖がかかった髪が視界に入って、少しだけ胸が痛くなる。

――弱い私が生き抜くための手段ならば、喜んで使うしかないんだ。

気配を薄める。イメージするのは水面。闇の中、ゆらゆらと揺れていた水面が静まり、波紋ひとつ浮かばなくなる。凪いだその水面には、ぼんやりと淡い桜色の花を持つ木が映されている。
妖怪として畏れさせることはできないかもしれない。でも、隠れることだけは不思議と昔から得意中の得意だった。きっと同族でもないかぎり、私は絶対に見つからない。

そう考えると同時に、また胸が痛んだ。
ふわりと柔らかい風が吹く。
まるでそれは私を弄んでいるようで。気配を消す私は微笑んだ。

――ああ、きっと、私は泣きたいんだ。




×
「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -