Angsthase | ナノ
カソウの舞台


帰路につく最中、懐かしい感覚が身体を包んだ。

ナツメはハタと首を傾げた。懐かしい、とは一体どういうことだろう。当然のように頭に浮かんだ表現だが、懐かしいと思える理由すらまったく見当がつかない。
あえて言うならば、先ほど赴いた奴良家での心持ちに近い。実家に帰ったような、あるべきところに戻れたような……。郷愁、とでも言うのだろうか。
うまく言葉にできず、もどかしくなる。

モヤモヤとした霧をつかむような感覚を抱えながら、ナツメは歩みを進める。しばらくもしないうちに、養護施設の玄関が見えた。
ナツメの暮らすそこは、どこにでもあるような中規模の施設だ。家というよりかは学校に近い外装。小ぢんまりとした庭には子供たちの遊具がぽつりぽつりと設置されている。園児たちが楽しげに走り回って職員に抱きついている姿は、彼らの事情を知らなければありふれた幸福の形のように見える。
もう見慣れてしまった風景だ。いまのナツメにとっての帰る居場所は、この施設しかない。しかし、それが不幸なものだとは微塵も思っていなかった。知らない家族の元でストレスを抱えながら暮らすくらいならば、天涯孤独としてここで生きているほうがいくぶん穏やかで幸せだ。
年季を感じさせる玄関の門をくぐる。その足取りに、淀みなど微塵も感じさせない。

――鯉伴さんがいるならば、旧鼠の心配はないだろう。

そう呟く声は、淡々としたものだった。




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