Angsthase | ナノ
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「――というわけで、新しく入った巡里さんだ!」
「巡里ナツメです……よろしくね」

力無い笑みを浮かべて、ナツメは自己紹介をする。
時は放課後。場所は清継と所属するクラスの教室――つまり、ナツメのクラスでもある。帰りのHRが終わると同時に、ナツメは逃げようとしたが、清継に全力で阻止された。

「(あぁ、巻き込まれてしまった……)」
「よろしく! なんて呼べばいいー?」
「ナツメちゃんって呼んでいいー?」

内心でまだ落ちこんでいるナツメをよそに、巻たちはわいわいと盛り上がっていた。
その勢いに気圧されつつ、ナツメは彼女たちの質問に応える。

「名前呼びでいいよ。えっと……――」
「はいはーい、ワタシは巻紗織。好きに呼んで! んでこっちは鳥居」
「鳥居夏実ね。私も好きに呼んで大丈夫だよー」
「じゃあ、巻ちゃんに、鳥居ちゃんね。改めてよろしく」

名前呼びよりも、昔、紙面で彼女たちが多く呼ばれていた名字のほうが、ナツメには親しみがあった。彼女たちもやはり名字で呼ばれるほうが慣れているのか、とくに嫌がるそぶりをせずに受け取めていた。

「僕は奴良リクオ。よろしくね、巡里さん」
「……及川氷麗です」
「私は家長カナ。妖怪に興味があるなんて珍しいね!」
「えっと、べつに興味があるわけじゃ……」

そしてあのヒロインたちと主人公のリクオ。氷麗の視線をツキツキと感じながらも、なるべく目を合わせないようにしてカナの会話に乗った。

「そうなの? てっきり妖怪が大好きなのかと……」
「うーん、それは清継くんくらいじゃないかな。――えっと、家長ちゃんは好きなの?」
「えっ、私!? べ、べつに好きってわけじゃ……! あ、でも興味は……」

カナはごにょごにょと語尾を曖昧にさせて顔を赤らめていたが、ナツメはその内心をだいたい把握していた。おおかた、リクオの妖怪姿に惚れたことを自覚しておらず、憧れのようなものを抱いている自分自身に戸惑っているのだろう。
そしてカナの意中の人であるリクオはといえば、カナの赤面する姿に首をかしげて疑問符を浮かべていた。

「そして僕――清継と、陰陽師の花開院さん、島くんで全員だな!」
「(さらっとゆらちゃんが陰陽師だと言ってるよ、この子……)えっ、花開院ちゃんって陰陽師なの?」
「えぇ、そうです。みなさんこう言ってはりますが、妖怪は危険な絶対悪なので、どうか見つけても触れんようにしはってくださいね」

にこりと笑うゆらと、その隣で怯える氷麗。知っている者からすると、なかなかに面白い光景だった。

「……うん、わかったよ」

ナツメは鯉伴の姿を思い浮かべながら、ゆらの言葉に頷いた。本当に妖怪が絶対悪なのだとすれば、あの人も悪ということになるのだろうか。そんな冗談じみたことを心中でぽつりと呟きながら。




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